第19話 コンクリート
次の日、元学校の予定だった施設に確認に来た。
何でも宰相の案で平民学校を作ろうとしたそうだが、子供は労働力として働いているために、実現できずに、1年以上使われていないらしい。
住宅地から遠いこんな所に子供が通えるはずがない。
そもそも計画的に作られた人工都市の場合、想定外の事には対応ができない。
きっちり無駄なく区画整理された都市では、学校などの敷地面積が大きな物は追加できないからだ。
無駄が無い事が良いとは限らない典型的な例だ。
研究所と言っても工場のような機能を持たせるつもりだから、王都の外れで問題はないのだが、現状、2階建て校舎が一つしかない。
全体の土地面積が広大なので、建物を追加してコの字形にしようかな…。
とりあえず、マーガレットさんと魔術師団に行って、研究所の所長として挨拶する。
「初めまして。私は今回新しく設立された研究所の所長を任されましたカールです。これから、騎士団と魔術師団は生まれ変わります。王都の安全のための任務は、主に第1魔術師団に任せる事になります。従って第2魔術師団の方にお願いがあってやってきました。」
「研究所では、これから国民のために多くの新しい発明を行う予定です。それは、砂を石のように固める物であったり、作物を豊かに実らせる物であったりします。それらの物を作るための魔力を求めているのです。」
「関心のある方は、このあと適性と意思を確認させて頂きますので、マーガレット副団長に申し込みをお願いします」
そう言って、建物内の部屋に移動した。
第2魔術師団のメンバーほぼ全員20名が来ていた。
そこで、5名ずつ銀粒を渡してから、私が手のひらに乗せた銀粒5個をぎゅっと握り、練り練りして、1個にして見せた。
これができるなら、土魔法は使えるという事だ。
順番に5名ずつがトライして、全員の可不可をメモしたあと、今度は魔法鳥を飛ばして、学校の校庭に書いてきた図を、紙に書いて提出してもらった。
これは彼女達が魔術師団に入る時にテストされた伝言鳥とよく似たものだ。
かわいい小鳥を作り出す人も居れば、フクロウのような鳥を作り出す人もいる。
いずれにせよ、魔法の鳥が見た景色が本人には見えるという魔法で、これは全員できる事が分かった。
「それでは、ここにいる全員が転属希望という事でよろしいでしょうか?」
「はい…えーと、上司はカールさんですか?」
「いいえ、今のところ、皆さんの上司はマーガレットさんだと思ってください。」
そう言うとみんな喜んでいる感じだ。
マーガレットさんもそれを見て嬉しそうだった。
「それでは、今から工房へ移動します。」
残念ながら自分の工房では、溶解釜はひとつしかない。
倉庫からセメントの材料として確保していた石灰石、粘土、けい石、酸化鉄原料を粉砕し、それぞれを積み上げていく。
魔術師20人を4組に分け、石灰石担当、粘土担当、けい石担当、酸化鉄原料担当、記録係の5人一組にして、異なる配分で調合した後、溶解炉で1450℃で化学反応を起こさせて水硬性化合物にする。
できたものに土を混ぜ、水で溶かしてレンガを作る。
乾燥したあと性能テスト。
最も硬くできたものを採用したいのだ。
ワイワイ言いながら20人が楽しくセメント作成実験を1週間してコンクリートブロックが完成した。
シンシアにはこの様子を見てもらってから、工房の設備を2つずつ元学校に設置してくれるように手配したのだった。
私は鉄骨を作り、土台に穴を開けて、建物の骨組を立てて作っていく。
壁はコンクリートブロックを積んで、さらにコンクリートを風魔法で吹き付けていく。
この壁作りの作業は、彼女達にやってもらった。
災害発生時の家屋の修理に役立つからだ。
今まで意味のある仕事にめぐりあわなかった彼女達。
この作業の意味を理解して、楽しく、そして真剣に魔力操作に取り組んでいる。
土砂崩れによる救出活動などは、土魔法が最も安全に、素早く対応できるはずなのだ。
そんな私の例え話に、目からうろこだったのだろう。
『魔法や魔術は、戦争のためのものではない。』その事を理解してほしい。
鉄筋の入ったコンクリート板を作り、床材として使用して建物を建てていく。
2か月ほどで、参謀部、情報部の建物が校庭を囲むように出来ていた。
元からあった建屋は研究所だ。
王国歴 257年10月第1週
何だかんだで10月になり、私の誕生日がやってきた。
王都の神殿に行こう。
礼拝堂に入り女神像に跪いて、やや緊張しながら、お祈りをする。
この5年間はどのような評価だろうか。
様々な場面で女神の名を使ってきた。
怒っているだろうか…
女神
「ふふふ…怒ってなんていませんわ」
「その通りだ。君は良くやっている。殺し合いを避け、この世界の繁栄に貢献しているといえよう。正直、転生者という者がこれほど貢献するとは思ってもいなかった。いや、君がと言い直した方がいいかも知れない。」
「評価頂き、ありがとうございます。私には前世の反省も、後悔もありますから。そのような失敗の経験が役に立っているのでしょうね。」
「前世では、私は欠陥人間でした…。そのため子供が出来ず、結婚も失敗に終わりまして。ですが良い伴侶に巡り合い、再婚をして、妻の子供ではありましたが、親の気持ちも少しは知ったのです。何か改める所があればおっしゃってください。」
「大丈夫です。今のままで思うように生きてみなさい。」
こうして私は無事に10歳になり、王国軍が設立された。
デリンジャー王太子(大将)が考案した技能レベル判定により階級が決まる試験は、第5騎士団と第6騎士団が戻って来て、騎士団本部で順番に行われた。
デリンジャー大将の挨拶から始まり、編成が発表された。
王国軍は北方方面軍、東方方面軍、南方方面軍の3方面軍編成で、参謀部には出身地の地理に詳しく、頭が柔軟な人物が各方面から2名が集められた。
4部隊編成200名が、3方面軍編成と参謀部に分けられた形だ。
その中でも北方方面軍が最も人員が多く、次いで南方方面軍、そして東方方面軍となった。
それぞれの部隊が王都にいても何の役にも立たないので、今後は、各方面軍の施設を建設することになる。
参謀部の建物には、作戦室が作られた。
この広い部屋にはグランデ王国の立体図が床上30㎝位置に土魔法で作られていた。
立体図の要点は、各方面軍の仮想敵国がどのようなルートで侵攻してくるのか、その時にどのような作戦で、部隊をどのように動かして防衛するのかを、目で見て確認できる事であった。
西側が海なので、この海から地図の中に入る事もできる。
だが、ほとんどの地点が不明確な地図であった。
参謀部の直近の課題は、この立体図を完成させる事であった。
「マーガレット少佐。魔術師10名の鳥魔法を使って、この地図を完成させるのが、直近の課題です。」
「これはすごいな。」
全員が真剣に立体図を見ながら、何かしら考えていた。
「ここから敵が来たら、どうすればいいのか、どこに軍の拠点を置くべきか…。まずは各方面軍の砦の位置、拠点の位置を検討して下さいね。」
お読みいただき、ありがとうございます。




