第17話 王国軍構想
---- 研究所活動方針 -----
グランデ王国の現状の問題点
1項目目
・王国騎士団は、国王の軍であり王都の防衛軍である。故に他国の侵略は想定外。
・王国魔術団は、国王や王都要人の婦人達を守る部隊であり、戦闘行為は想定外。
・守備隊は国内の魔物退治を含む治安維持を想定しており、他国の侵略は想定外。
以上の事が、共和国が湖の町バルナへ侵攻した事に対応が困難であった理由である。
対応策
・対外的な軍隊を発足させ、外国勢力の状況を把握し、この国の安全を確保する。
・国軍には参謀本部、その傘下に参謀部、情報部、研究所を有し、各自の職能に応じた階級制を持って待遇する。
・兵士の階級は、曹長、1曹、2曹、士長、1士、2士 とする。
・兵士の役職は、大隊長、中隊長、小隊長 とする。
・国軍の幹部は、将官、佐官、尉官 とする。
2項目目
国力増強のため、食糧増産のための肥料を製造する。
・肥料生産のため研究所に化学合成部隊を配置する。
・肥料の有効性確認のため、試験農場を有するものとする。
実施施策の詳細については、方針の裁可を頂いた後に、予算申請書とともに提出の予定。
以上 カール・ラングリッジ
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「マーガレットさん、これを宰相閣下に提出したいのですか、お願いできますか?」
「分かりまし…た…。何です?これ。」
「見ての通りです。説明が必要でしょうから、『宰相の都合の良い時にお呼び下さい』とお伝えください。」
マーガレットが書類を宰相閣下の所へ届けに行ったので、シンシアさんに研究施設について聞いた。
「ここは事務所ですよね。研究施設はどこでしょう?」
「では、今から私がご案内いたします。」
シンシアの後を付いてゆく。
すぐ隣が研究室という事だろう。
比較的大きな空間で、大きめの机が並んでいるが、器具などは何もない。
「何を研究するかのテーマを騎士団と魔術師団に案内され、関心の有る者の中から選抜して基本3か月間、取り組む事になります。」
「所長自身は何を研究するかは自由で、研究参加者の動向を見て助言するのも良し、中止させるのも良しという事です。ただ3か月で何の成果も得られない場合には、宰相閣下の権限で中止になる場合もあります。」
「研究テーマを与えられる事はあるんですか?」
「あります。今回のクロスボウのような具体的な緊急依頼も入る可能性があります。」
「優先順位と並行処理の両方があるんですね。なるほど。」
研究室の隣は、装備課で10名の職員がいた。
東西南北各2名、中央担当が2名だそうだ。
その隣から順に、第6騎士団、第5騎士団、第4騎士団、第3騎士団の部屋になっている。
第1騎士団から第2騎士団は3階に位置していて、3階には会議室、団長室などもある。
午前中は訓練をしている事が多く、今は第5騎士団と第6騎士団は湖の町バルナへ遠征している。
大きいとは言え、1部屋では50名は入れないので、2部屋に分かれてしまうが、実際には交代勤務や怪我を考えると1部隊実働30名はほしいとの事だ。
「今は訓練している時間なんですね?」
「団長、副団長、部隊長、中隊長までは、居室にいると思いますが…」
「あ~、第1から第4までは、居るんですね。では、会議室で幹部の方に挨拶と質問などはできますか?」
そう言ったところへマーガレットが戻ってきた。
「ならば、私とシンシアで手分けして集めよう。シンシアはカールさんを会議室に案内してから、声を掛けてくれる?」
「分かりました。では行きましょう。」
30分ほどして、会議室に幹部達が集まってきた。
訓練に参加していた中隊長もいたようだ。
マーガレットはいつも武官らしい姿勢で挨拶をする。
「騎士団の諸君、突然の招集ですまない。本日、新設された研究所の所長、カールさんが来られたので、ご挨拶をしたいとの事だ。自己紹介をお願いする。」
そう言うと、団長のベルナーさん、副団長のギュンターさんと挨拶がされ、第1から部隊長、中隊長と挨拶が続く。総勢10名の幹部達。
「この度、研究所の所長を任されました、カールです。これから何かとお話しする機会があると思いますので、よろしくお願いします。」
部隊長以下は『こんなガキか…』。という表情だが、団長と副団長は違うようだ。
「それにしても、お若いですなー。失礼ですが、おいくつですか?」
「9歳と10か月です。」
「ははは…」。会議室内に小声だが笑いが起きる。
「そのような若さで、あの鋼鉄剣やクロスボウを作られたとか。」
会場がしーんと静まり帰る。
団長に続き、副団長ギュンターも言いたいらしい。
「フィアナ女神から加護を3つ授かったとか。」
「お褒め頂き恐縮です。が、しかし、才能さえあれば、役に立てるというものでもありません。私の父が守備隊に所属していて、祖父が武器屋という周囲の人間に助けられて、できた事です。」
「それでは今後ともよろしくお願いいたします、私からは以上です。」
「では、今日はありがとうございました。以降連絡はわたくしシンシアまで、よろしくお願いします」
最後はシンシアが締めた。
挨拶を終え、私達3人は会議室をあとにした。
階段を下りながら、シンシアさんは1階の食堂へ行ってみましょうと、昼食の誘いを口にした。
1階はシャワールーム、ロッカールーム、武器庫、食堂になっているが、流石に食堂に300人は入れないので、交代で食事を取るらしい。
予想通り第1から優先で、番号順らしい。
食堂内には、まだ人がほとんどいない。
関係者しか来ないのだろう。
メニューさえ無くて、私では注文できない。
「昼食を3つ」
と、シンシアが言う。
選択肢は無いようだ。
ワンプレートで腸詰肉と芋を煮潰した物だ。
今時点で判明している事を整理すると、宰相から見た私は、飽くまでも武器の開発者に見えているのだろう。
しかし、それ以外の事で『何が飛び出てくるか』という期待もしているかもしれない。
それが、この姉妹の赴任になって表れているのだろうか…
もちろん、私の監視目的もあるのは承知の上だが。
一方で、私がやりたい事は、この国の安全を確保する仕事に従事したい。
現代日本に生まれ育ったのだから、自衛隊のような組織が理想なのだ。
外国からの脅威から国を守る事も、災害、スタンビートなどから守る事も、等しく重要な任務だろう。
但し、私自身 一介のサラリーマンだっただけで、軍事オタクでもなく、科学者でもなかったが、総合電機メーカーのエンジニアだったために、色々な方面の技術者たちと交流があったり、海外赴任経験も持っていて、視野だけは広いと自覚していた。
だが、どうしても私のしたい事を実現するためには、生前の世界の知識がほしい。
これは女神と男神に頼るほかはないだろう。
マーガレットとシンシアのふたりは、昼食プレートを見て食欲を無くしているようだ。
「魔術師団の昼食は、こことは全く違うの?」
ふたりはこの話題に食い付くように、騎士達の食事には繊細さが足りないだの、代わり映えがしないだのと言っていた。
「ごちそうさま。」
そう言って、第1騎士団の人達と入れ替わるように食堂を出た。
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今日も第20話まで投稿予定です。




