第162話 王室会議3
王国歴 265年7月第4週
6月末に伊賀衆の若者6名を王太子と姫の護衛として派遣してから、更に老若男女の伊賀衆を王宮に30名派遣した。カスピ海ルートだ。ポルトランドからは軽装甲輸送車で屋敷まで送り届け、王宮までは鉄道を使う。
当然だが、国外『キョウト』のIDを持つ者の存在が目について、ビデオ会議が開催された。
出席者は国王陛下、王妃、王太子、姫、宰相閣下、シンシア、そして私カールだ。
ここまでは王族会議メンバーであり、不正によって断罪されたジョージ侯爵が欠けただけだ。
宰相「最近、外国キョウトのIDを持つ者が王族の警備に付くなど、体制に変更があるようなので、そのあたりの認識をすり合わせしておきたい。」
宰相「カール殿。」
カール「シンシアさんとエリオットが情報部門を担当していて、特にスパイ関連の対応が求められた場合、対外部隊である王国軍を動かす必要がありますから、参謀本部という王国軍のトップを宰相がされるのは妥当な事です。」
カール「しかし、王太子が軍のトップでなくなったのなら、王族の警護は軍には任せられない。」
カール「かと言って、守備隊では力不足。そうですよね?」
ここで、王国内部の問題点が明確になった。王族の方達も全員が何が問題なのかを認識できただろう。
カール「ここで海軍省も参加してもらいましょう。シンシアさん、セバスを呼び出してもらえますか?」
シンシア「はい。」
セバスには既に待機してもらっている。
セバス「海軍省、セバス。参りました。」
ビデオ会議であるため、ディスプレイが不足する場合には、画面分割で人が増える。
ちょうど、私の画面にセバスが割り込んだ形だ。
カール「ご苦労様。」
カール「海軍省はセバスの背景に映っている指揮管制室を見ればお分かりのように、海上の天候や外国船、侵入者の警戒と漁業を主任務としており、地上軍は持っていませんから、彼らも王族の方々の護衛には適していません。」
カール「王国軍、守備隊、海軍のいずれも不適格ということで、特別に私の居る外国キョウトで鍛えた者たちを派遣した、という事です。」
カール「ついでに言えば、ジョージ侯爵が王太子や姫の信用失墜を画策していた事実を踏まえ、王国学園出身者というだけで王族の周辺に配置する事は、避けるようにしました。」
国王「そういう事だったのか…。」
王妃「メイド達が急に変わりましたから、何か理由があると思っていました…。」
カール「シンシアさん、今は王族の方々の行動が把握できなくなっていますが、確認が必要な時は、直接お聞きいただくよう、お願いします。」
シンシア「えっ、別に今まで、王族の方の行動は監視したりしていません。」
カール「監視はしていないでしょうけど、チェックはしていたでしょう?」
シンシア「はい。それは護衛や馬車の手配が必要な時に…」
カール「そして、いつ、誰と、どこに行って、何を買い、支払いがいくらか…。」
シンシアはこれ以上の弁明は、返って印象を悪くすると察して、反論はしなかった。
既に、王族の方々の表情が険しかったからだ…。
実は支払い業務を厳格にしようとすれば、行動や買い物の内容を把握しなければ、不正請求などは見抜けない。だがしかし、それはプライバシーの把握になってしまう。
今のように伊賀衆が予算管理して、ギルドカードでその場で精算してしまえば問題はない。
極端な話、買い食いの串焼きまで、国家予算から支払おうとするからややこしくなるのだ。
最初から王族の予算を確定しておき、不足するなら補正予算をもらえばいいのだ。
宰相「次に、各町に劇場を作る予算請求が上がって来ているが、あれは何だ?」
カール「王太子が行政の不正を正し、肥料や農機具が普及した事で、庶民の生活にも余裕が出来てきました。はっきり言えば、暇ができたのです。」
カール「そろそろ娯楽が求められる時代が来たという事です。」
カール「そこで、各町の集会所や病院、或いは空いた建物を劇場として、国の活動を知らせようとしているのです。具体的には王国軍の活躍や肥料の無償配布の模様などを映像で見せるのです。」
王太子「つまり、今の繁栄が、平和が、誰の活躍によって得られているのかを、見せるのだな!」
国王「それは素晴らしい!」
王妃「どのように映像で見せるのですか?」
カール「そこはまだ検討中ですが、私がそのような機械を提供します。」
宰相「そうか、分かった。すぐに承認しよう。」
宰相「それとキョウトの者達の費用の請求書を出してくれ。すぐに決裁しよう。」
カール「いいえ、その分は王室予算から支払う事と致しました。」
カール「国家の予算からですと、どこに、どのような人員が何人いるのか、という重要な機密情報を提供しなければいけなくなりますから。」
宰相「うむ。それもそうだな…。わかった。」
今日の王室会議で、お花畑の王室一家の意識は変わっただろうか…。
キョウトでは、新たな部隊の訓練をしている。現役男女30名による王宮警察部隊。
いわゆる科学捜査班だ。
指紋検出には粉末法、液体法、気体法、レーザー法がある。
金属表面やガラスコップなど、目で見て分かる物は『粉末法』で良い。
紙類や木製品では、液体を湿布や噴霧し、その後電気的に加熱して反応を出す『液体法』を。
樹脂や革製品ではヨウ素やデベロッパーなどをガス化して密閉空間の中で反応させる『気体法』を使う。
レーザー法は、発光薬を付着させ、そこに特殊な光を当てて、指紋を検出する方法だ。
これらの方法を慎重に確実に検出できるように訓練する。
カメラも用意した。
人口眼球と画像記憶用の魔石があれば、液晶ディスプレイに表示ができる。
そして、筆跡鑑定。
彼らには手錠代わりの結束バンドや特殊警棒を持たせた戦闘訓練もしている。
そして全員にグロック毒針銃と、5台同時通話可能なトランシーバー、及び、骨伝導イヤホンとピンマイク。
つまり5人1組の捜査チームが6組できることになる。
訓練後は、ヒョウゴやオオサカで模擬訓練を行って、3か月後には王宮に派遣したい。
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