第160話 サポート部隊の売り込み
王国歴 265年6月第4週
フエキ屋敷にやってきたリンダとその護衛部隊。
七曜の紋章が入った装甲輸送車は、検問はパスなので護衛部隊は、その存在を知られず入国する事になった。
今回の2往復により、AIカールは砂漠のワームが数少なくなっている事に気づいた。
獲り過ぎたのだ。
そのことはともかく、フエキ屋敷では夕食はリンダがレミに教わったメニューを作り、女性の忍びがそれを教わっている。
AIカールは男性の忍びを相手に、近接戦闘での受け流し、躱しなどの防衛術の指導をしていたのだが、昼食に行くフェルマ食堂で、リンダの存在がクラウディア2曹達から、王太子に伝えられていた。
一方、キンキ食品工場のカールには、王国を含め電波塔の監視カメラ映像は全て見えている。
6つの村の音声アンテナからの情報では、オンタリオ市を陥落させたセントラル帝国は、北西50㎞にあるウェザー砦の周囲を監視しているらしい。
そんなセントラル帝国軍の偵察部隊が、ポルトランドから来た軽装甲戦闘車と、軽装甲輸送車2台を発見し、遭遇戦になったそうだ。
いわゆるトマホークという斧と弓矢で武装したセントラル帝国兵。
38式歩兵銃を戦闘車のルーフから撃たれるのだから、まともな戦闘にはならない。
食料がポルトランドから来ていたこと、かつ、王国軍が占領していることを知った帝国軍は、オンタリオの商人から、6つの村の防護壁の存在を知る。
もちろん、そういう情報は得ていたのだが信じる者はいなかったのだ。
そこで、防壁内部の者との戦闘を棚上げして、直接ポルトランドへの偵察を始めていた。
新しく国内の内政を指揮し始めていた王太子に変わり、参謀本部のトップになった宰相も、同じく監視塔の監視映像や帝国内の音声を聞き、状況分析もできる。
シンシアからも、ポルトランドから来た軽装甲戦闘車と、ウェザー砦を包囲していた帝国兵との遭遇戦について報告を受けていた。
北部方面軍のダンジョン攻略も終わり、実戦経験を得る機会が減っていて、かつ、砂漠のサンドワーム狩りも、魔物の数がめっきり減っていたため、宰相は帝国攻略を考えていたところなのだった。
そこで、東部方面軍の拠点を東の森ハリコフから、ポルトランドへ移す事を決断した。
だが、ポルトランドからは、南方向サクラメントへ進むルートと、6つの村経由のオンタリオ市へ進むルートの2方面作戦が必要となる。
ポルトランドの南部地区は、東部方面軍が防衛拠点としていたため、この地区を拠点とする事とした。
戦闘経験が多い北方方面軍は、帝国オンタリオ方面への部隊としたのだが、東部方面軍の移転が終わりしだいという第2段階の作戦とした。
このため、北方方面軍は、フエキの車両基地から線路を延伸して、ハリコフ、ポルトランドまでの鉄道事業を支援する事になった。
内政の課題であった脱税や肥料の横流しに一人で取り組んでいた王太子だが、実際にはAIカールが補佐していた。そういう約束だったからだ。
6月の収穫の時期を迎え、偵察機の映像からも収量に大差ない結果だったのは、汚職、不正を一掃できた結果だろう。王太子が、行政の治安維持部隊である守備隊を完全に支配下に置いた証拠と見ていいだろう。
王太子を後ろから操ろうとしていた叔父のジョージ侯爵は、鉱山の横流し、肥料の横流し、賄賂など、あらゆる収入源を無くし、見る影もない状態だ。
だが、王太子の一人相撲が多いために同級生の護衛は既に辞めていた。無役では続かない者が多いのだ。
そこで、男性の忍び3人を連れて行き、王太子の護衛にどうか、と推薦しておいた。
もちろん、王太子はカール大好き人間なので、文句なく採用になり、給金は王太子から出される。
次はアンジェラ外務大臣だ。
軽装甲輸送車でショコラ宮殿に直接行って、アンジェラ姫に面会を申し出た。
当然だが、国王も王妃も一緒に面会する事になった。
国王「久しいな、カールよ。」
AIカール「はは。陛下に置かれましては…」
国王「堅苦しい挨拶は良い。先日、王太子の護衛を斡旋してくれた件、聞いておる。」
王妃「本当にありがたい事です。」
国王「みな、感謝しておる。」
国王「して、今回はアンジェラの副官、及び、護衛の斡旋とな?」
AIカール「はい。さようでございます。そこに控えております者が、副官候補のリンダでございます。」
リンダ「リンダ・ラングリッジと申します。」
国王「ラングリッジ…」
AIカール「実は神からセイトに居る彼女の救出を依頼されたのです。先日の海軍と合同作戦が、その救出作戦だったのです。」
国王「おお!聞いておったが、あれは救出作戦であったのか…」
AIカール「神から保護せよと言われたリンダですが、共和国での教育では心許なく、一般的な生活知識はもとより、高度な知識も有しております。」
アンジェラ「リンダさんが副官になってくれるのは、うれしいですが、何をするおつもりですか?」
AIカール「現在私が共和国南部に開発しておりますキンキという地域には、様々な有用な物があるのです。それらの交易を外務大臣とともに進めるつもりなのです。」
アンジェラ「七曜商事ではなく?」
AIカール「キンキ地域は七曜商事から独立した存在です。」
AIカール「現在の王国は、七曜商事と宰相一家が管轄している部門の支配力が強く、王族側は王太子が内政管理と守備隊を掌握しているに過ぎません。」
AIカール「そこで、経済的な力を強めるため、アンジェラ姫に貿易という大きな柱を担当頂きたいのです。国の安定は力のバランスが重要ですから。」
彼女には副官としてリンダを勧め、護衛として女性の忍び3名を付けておいた。
もちろん、アンジェラ姫もカールを信頼しているため、了承してもらった。
具体的な貿易品は、リンダのドレスや靴作成機を見てからという事にして、ドレスやレーヨンの肌着などを、AIカールにキンキ食品工場まで引き取りに来てもらう事にした。
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