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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第2章 AIたちの安寧の地
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第158話 リンダ


王国歴 265年5月第3週



2日後、ヒョウゴ北部からオオサカを抜け、街道にでた私達の装甲車は、そのまま熊野神社の参道下まで走ってきた。


ここからは登り階段だが、私以外は苦にならない。途中休憩後、アイに背負われて登り、やしろに着いた。



私とアイが先頭を行き、オーロラとハンゾウがリンダの両脇を守るような体制で、本殿奥まで進む。


そして、フリアノン像の前で正座して、この世界の安寧を祈る。


すると、前方に座禅を組んだ地球神の姿の像が現れた。


地球神「神山武志こうやまたけしよ。ご苦労であった。」


あくまで像として現れるため、表情に変化はないが、満足そうな声に聞こえた。


地球神「エンドウイサオ、前世では医師として満足な活躍が出来なかった分、こちらの世界での活躍を期待していたのだが、手違いで君には苦労を掛けた。」


地球神「今の君は恩恵もなく、神山武志こうやまたけしの作った『リンダ』という体での生活がはじまる。だが、希望するならば、君の魂を輪廻の環に戻す事もできる。」


地球神「どちらでも、希望する生き方を選択しなさい。」



リンダ「輪廻の…ですか…」


地球神「そうだ、このキンキという地域で、新たな生命を得る事になる。」



リンダ「…いえ、私はこのまま『リンダ』として生きてみたいです。」


地球神「そうか。だがその体は人工の物だ。何か異常があった時やメンテナンスが必要と思った時には、この熊野神社へ来なさい。いいね?」


リンダ「はい。わかりました。」



ハンゾウとオーロラはリンダの教育をするために熊野に残った。


このあと、1週間ほど、実際に生活ができるように、炊事、洗濯、掃除、裁縫などの一般的な生活の基本と、山菜取り、狩り、魚釣りなどの食糧調達方法を訓練する予定だ。




私とアイは黄山工場に戻り、先々週におこなったセイトまでの上空からの偵察画像を、3D プリンターで地図にしている。


王国時代に土魔法で地図にしていたのが、なつかしい。



自律型偵察機『とんぼ』は、最新バージョンの軽装甲戦闘車との相性がいい。

ミッション成功のための最適解を自動的に選択する。


例えば、『地形把握』のミッション中には装甲車と通信して、雨雲の有無を把握して、雨を回避できる地点に移動する。


例えば、装甲車から『索敵』の指令を受ければ、装甲車の進行方向の上空に移動し、赤外線での熱源探知を行う。


飛行高度や速度など、いちいち指示しなくても自律的に行動を選択できるAI偵察機だ。



今回の西部偵察により、我々のいる合成大陸の姿が少し理解できた。


フィアナ女神の思い付きで三国志時代の中国名が付けられた益州(漢中、成都、重慶)は、その東側だけが存在している。


交州と呼ばれた香港、広州、江西など台湾以南の地域は存在していない。


呉と呼ばれた揚州も福建は無く、荊州は長沙、貴州より南は海なのだ。



共和国と呼ばれていた地域(魏)から逃げ出した、10万とも20万ともいわれる難民が行った先は、漢中、襄陽じょうよう武漢ぶかん、徐州あたりと思われる。


結局、帝国に逃げ込んだ農民たちとは、徐州の農民だったのだろう。

この世界での人の移動可能範囲は、とても狭いという事だ。




王国の情勢に少し変化が起こっている。


宰相は、セバス大佐を少将に昇任した後、海軍省の司令官として指名した。

もちろんこれは、AIカール引き上げのための当初から計画されていた処置だ。


王国軍最高司令官はデリンジャー大将で変化は無いが、参謀本部の本部長は、ロベルト・カルバン宰相が兼務することになった。


アンジェラ外務大臣は、変わらず、お飾りのまま。


ショコラの七曜工場は、国営工場になり工場長はタクミ・ラングリッジ。

ここまでは当初の計画通りなのだが、王国軍の技術技官に、エリオット・カルバンが就任したのだ。


七曜商事と宰相一家が、同盟関係にある事は事実だし、方向性は良いのだが、今まで影の存在だった宰相が、王家を差し置いて露出し過ぎていると、私は感じている。



王家が私と同じように感じなければいいのだけど…。


念のため、レーダーのCPUボックスに『Invisible』という信号を定義しておいた。

次回以降のソフトウェアバージョンアップで、各機器にインストールされるだろう。



リンダの教育は、一般的な知識が終了し、この世界での各国の情勢、特に我々が詳しい王国の政治体制や軍に関する知識を説明していた。


当然、最も文化的な生活ができるのがグランデ国王である。


リンダ「私、グランデ王国の王都ショコラで住んでみたいです。」



「なるほど…。どうせなら華やかに王族でも狙ってみようという訳だね?」


リンダ「はい。」



確かに現状、王族と宰相一家とのパワーバランスが崩れてきている。

私の養女として、ラングリッジ姓を持たせれば、王太子の関心を引けるだろう。


問題は、どのようにリンダをデビューさせるかだ…。




お読み頂き、ありがとうございます。

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