第15話 王都へ
王国歴 257年7月第3週
10歳まであと2か月という時期であったが、王都へ移動するように指示を受けた。
既に武器開発所長という辞令が発令され、赴任前の今月より給与が支給されるらしい。
しかも、王都に武器店の店舗と工房も用意されているとの事。
店舗の2階が住居空間だそうだ。
サマンサさん、父さん、母さん、兄さんに見送りされて、王都へ移動。
と言っても身の回りの品しか持っていない。
工房の荷物は別便で守備隊によって送られるらしい。
(もう職員扱いなのだった)
すでにゴーレム魔法は熟練度が上がって、自在に操れるようになったので、クロスボウ用に作った板バネの破片を集めて、この破片を人間サイズのゴーレムとして、馬車と並走させている。
剣で弾かれる金属の破片のゴーレムなんて実用にはならない。
人体からの距離が固定できるなら、鎧になるんだけどね。
王都手前の防壁で検閲に合い、王国魔術師団の人が出てきた。
彼女はすぐに伝言鳥を飛ばせて、宰相発行の身分証が防壁の守備隊詰所に届けられた。
『王国騎士団 武器研究所 所長』開発から研究に名称変更だね。
つまり正式な組織になったという事か。
私達が到着したのは、第1区の高い防壁の外、第2区と呼ばれる城下町だ。
ダグザさんが王都に来た時、いつも宿泊する宿で馬車を預ける。
なぜか王国魔術師団の人が付いてきてますけど…。
監視の目はあるけど気にせず、ダグザさんと早めの夕食を食べて、部屋に入った。
この王都の中心部は城壁に囲まれた場所であり、王族の住まいと防衛施設がある。
その外周部は第1区と呼ばれ、王国要人の屋敷や別邸、及び国軍の施設(騎士団本部と魔術師団)などがある。
翌日の朝、私達が1階で食事をしているテーブルに、監視役の魔術師団の人がやって来て、武器屋の工房付き店舗へ案内してくれるとの事であった。
ここ王都の朝食も硬いパンとスープだが、高級なだけあってスープに肉片が入っていた。
武器屋の店舗は、裏の工房へつながっていて、フェドラ町の店舗より格段に広い事に驚いた。
しかも隣に馬車を入れる厩舎まで付いているとの事。
厩舎には世話係の農夫のおじさんも付いているらしい。
不要なら首にしてもいいとの事だが、そんな事できるわけがない。
裏の工房は道に面していて、こちらが工房の正面になるのだが、道の反対側は奥に長い畑であった。
厩舎のおじさんは、この畑の農夫だそうだ。
おじさんの話だと、店舗の経営者は1年も前に夜の稼業の女性と夜逃げ同然にいなくなったそうだ。
独自の化粧品を作り、その美人さんと組んで、飲み屋と化粧品屋は繁盛したそうだが、化粧品屋の家族が実家に戻ったあと、徐々に評判は悪くなったそうだ。
(なぜ9歳の子供にその話を?)
2階の住居に荷物を下ろしたところで、『明日は宰相の所へ出頭する段取りだ』と魔術師団の女性は言い、荷運びの手伝いが終わると、日用品のお店などを案内しようか?と聞いてくれて、ダグザさんと二人で買い物に行ってくれた。
確かにベッドはあるのだが、布団類が無い。
キッチンに最低限の鍋や食器類はあるが、綺麗にしないと使えない。
部屋自体は掃除をしてくれたようできれいだ。
食器類や鍋やフライパンを洗っていたら、農夫のおじさんの奥さんがやってきて
「私も雇ってくれないかい。料理や洗濯は得意だよ。」
「あー じゃーお願いしようかな。お名前は?」
「あたしゃ、ファルマって言うんだ。あの人はロバート。よろしくね…坊ちゃん。」
「僕はカールです。お爺さんは出掛けましたがダグザといいます。よろしくお願いします。それと給料はお爺さんと相談して下さい。」
「あー わかったよ。」
そう言って、ファルマさんは戻っていった。
裏の工房を改めて見ると、この空間が異常に大きい事が分かる。
おそらく工房としては、半分しか使っていなかっただろう。
裏の道側は馬車を入れていた場所だろうか。
或いは、元はロバートさんの農作業場所だったかも知れない。
とにかく、荷物や工具類が来ていない今のうちに、レイアウトを決めて、倉庫も作っておこう。
裏の道から入った左側は倉庫だな。
クロスボウや鍛鉄剣の置き場が必要だ。
土魔法で床を固めて、壁を作る。
天井はまた今度考えよう。
グラインダーや作業台は右の壁側。
溶解釜の後ろを土で固めて壁が燃えないようにしておかないといけない。
地面を固めて、棒で何を置くか書いておくか。
各場所に設置してある灯りの魔道具に魔力を補充して…やる事はこれくらいだろうか…。
工房側の高さのある大きな観音扉を閉めて、かんぬきを落としておく。
左の倉庫側の扉は開ける必要はないから、壁にしてしまおう。
手を付いて土魔法を発動させる。
左の扉のすぐ裏側に厚さ10cmで土壁を作り、固めてしまう。
ダグザさんが戻ってきたので、ファルマさんを雇った事を伝え、給料の件も決めておいてほしいと伝えた。
早速、買ってきたシーツや寝具を持って、2階の部屋に置いていく。
ダグザさんが一番奥の部屋、次は僕、そして階段直ぐの部屋が魔術師団の人…?
「カール。あの人はお前の護衛だ。」
「あーそういう事か。」
「いえ、暫定です。明日宰相閣下から話があると思いますが、おそらく、安全のため、第1区の騎士団本部に設置される研究施設に勤務頂き、基本的に官舎に入って頂く事になるかと思います。尚、休日はこちらで過ごされるのは問題ないかと…」
「但し、その際には騎士団の護衛が交代勤務でここに来ると思います。秘匿兵器の事もありますので…。」
なるほど…。
つまり私の護衛も必要だけど、秘密保持のために接触する相手を監視する必要があるのか…。
当然だね。
「お前は秘密の塊みたいな人物だからな…。それにしても、工房の方をもう形にしたんだな。荷物を運べるようになったら連絡する事になってたんだが、もう連絡しても大丈夫だな。工房の方は私がやるから、カールは仕事場の方の準備をしなさい。」
「はい。わかりました。武器店の方も今はまったく商品がないので、暇になりますね。」
「まー、お前が稼いでくれているから、私も気が楽だよ。護衛さん、街を案内してくれると嬉しいんだが、どうかな?」
「はい。わかりました。では、いきましょう。」
僕も希望の場所を追加しておく
「冒険者ギルドと教会の場所を教えてもらえると助かります。」
店は第2区でも、農家の畑に近いエリアだ。
高い位置に見える王宮の塔に向かって中心地側へ歩いていく。
計画的に作られた都市なので、道幅は広くて馬車が余裕ですれ違う事ができるし、馬車が通れない歩行者用の道もある。
少し歩くと、レストランなどのお店が所々にある。
店舗は許可制のため、王都で正体不明の者が店を開いている事はない。
どの店も保証人がしっかりしていないと店は持てない。
よく見ると第2区は守備隊が管理しているようで、東西南北に守備隊詰所があるそうだ。
冒険者ギルドに到着したが、特別大きい訳ではない。
中に入って受付嬢に挨拶し、訓練場を使っても良いのか聞き、登録者ならOKの返事をもらったのだが、私は既に騎士団の所属だった事を思い出した。
そして、更に中心地に近づいた場所で教会を発見し、私の見たい場所は終了した。
ダグザさんは、食料品の市場やら、飲み屋さん、露店が並ぶ下町などを見て回った。
帰りに魔術師団の女性が良くいく店に連れていってもらい、みんなで肉料理を食べたのだが、いつの間にか予約を入れていたようだ。
料金は宰相閣下持ちだそうだ。
さて、明日から出勤か。
お読みいただき、ありがとうございます。




