第148話 オオサカ
王国歴 264年9月第3週
アイとともにオオサカにやってきた。
北門から装甲戦闘車で市内に入る事にしたのだが、門番が拒否したので、車を横に移動させ、商人組合長のエドワードさんを呼び出してもらう。
次回車で来た時までに責任者に聞いておけと言っていたのを放置していたようだ。
組合長「わたしがこの都市の責任者、エドワードだ。」
アイ「私達はあの車で市内に入りたいんですけど。」
組合長「あ、あの車は何なんだ?」
アイ「私達の車ですが…。」
組合長「馬がいらない車なのか…」
「そうだ。乗せてやるから、門番に許可を出せ。」
組合長はあわてて、門番に指示を出し、入門待ちの人達を下がらせている。
アイは助手席に乗らず、そのまま歩いて車を誘導してくれている。
ゲートを通り過ぎたところで組合長を助手席に乗せ、東町奉行所へ行き車を横付けした。
組合長「この車はどうなっているのかね?」
アイ「貴方の質問に答える義務はない。」
組合長「なんだと!私はこの町の責任者だぞ。」
「ほー、あなたがこの町の責任者?では奉行所を開けてもらいましょうか。」
組合長「あ、いや…仮の責任者なのだ。奉行所はだれにも開ける事はできない。」
「では、私が開けてやろう」
奉行所の門が閉まっているのは、今月は西町奉行所の月番なのだろう。
横のくぐり戸から中に入り、奉行所横手の通用口のセキュリティー端末にカードを差し込んだ。
表示は『******』やはり番号入力待ちになっている。
暗証番号を入力すると、扉の奥で『ガチャ』という音がして、扉を開ける事ができた。
通路を入ったすぐの正面の扉は、建物の玄関やフロアーに通じる扉だろう。
建物に不釣り合いな金属扉を開けると玄関引き戸の上にある採光部から入る光で中は明るい。
見た目は木製だが、実際にはアルミでできた引き戸が4枚。
中央のロックを外しすべての引き戸を戸袋へスライドさせる。
正面の門から続く石畳がこの屋敷の玄関に続いている。
この季節に玄関を全開にすると寒い。
もう一度すべての戸を閉めた。
振り返ると、内部はコの字型の土間になっていて、三方に受付カウンターがある。
まるで冒険者ギルドの奉行所版だ。
立ち尽くす組合長を押し退けて、再び通路に戻り、奥に行くとそこには扉と水晶端末があった。
ヒョウゴと同じく、私のギルドカードをかざすと、『統治者権限 確認』という表示が3秒間あって、次に『初期設定』という表示に変わった。
奉行の設定は私、サブはアイに設定し、月番制度をOFFにして、東町奉行所だけを有効にした。
扉を開けると廊下が右手に伸びていて、正面には8畳ほどの座敷がある。
靴を脱いで一段上がった座敷に入ると右手方向から光が差し込んでいる。
障子の上には欄間があり、そこが採光場所なのだろう。
障子を開けると目の前には法廷があった。
いわゆるお白洲である。
だが室内のはずの白洲の天井には、青空が描かれ本当の空のように明るい。
このようなショッピングモールの天井を知っている…。
『ガタン!』
アイが音源を確認したところ、奉行所の門が開いた音のようだ。
通用口から再び座敷に戻り、お白洲の間へ一歩足を進めると
自動音声『神山左衛門尉さま、ご出座ーー。』
自動音声のようだが、しっかり神山になっている所が神様らしい。
指輪の知識では、いま立っているこの座敷は「公事場」と呼ばれ、町奉行をはじめとする役人が座る場所。
この座敷より1段下がったところに縁側、さらに階段状にその下にも縁側があり、最下段は土間に砂利が敷かれている。
武士や神官、僧侶、御用達町人などの特定の身分の人々は上の縁側に座り、浪人やその他の者は下段の縁側に、最下段は砂利の上に「むしろ」を置いて、そこに原告や被告が座ったようである。
もちろん屋根のある室内である。
アイに促され、商人組合長のエドワードさんが廊下から回り込み、上段の縁側に座る。
そしてアイは、公事場にあがり、土下座姿勢になった。
(2人ともやる気のようだな。ならば私も楽しんでみるか…)
前に進み、座布団に正座し、漆塗りの書類入れを覗き込むが、中には何も入っていない。
私が座った事を確認したアイが姿勢を起こし
アイ「オオサカ商人組合長エドワード、表をあげい!」
姿勢を起こし、私と目が合ったエドワード。
「そなた先ほど、『仮の責任者』と自ら申したな。一体、誰から責任者に任じられたと申すのだ。」
エドワード「は、はい。どなた様からも任されてはおりません。誠に申し訳ないことを申しました。」
「そうか、つまり、任されたつもりで治安維持に努めていた。という事だな?」
エドワード「はい。その通りでございます。」
「うむ。この度の虚言を述べし件、オオサカ商人組合長エドワードは善意の行為者と認め、無罪放免とする。」
エドワード「ありがとうございます。」
「これにて一件落着。」
立ち上がり、後ろを振り向くとふすまの上には「至誠一貫」の額が飾ってある。
『ざわざわ…』
「なにやら表が騒がしいようだな」
みんなで『金さんごっこ』を終わりにして、ふたりはお白洲の横の扉から外へ出たが、私は靴を履かなければならない。
アイよりも少し出遅れた私が見たのは、門から奉行所の玄関に続く石畳のうえで何やら揉めている藤林とオオサカの住民達のようだった。
藤林「あっ、カール様」
住人「組合長!」
「どうしたのだ?」
藤林「西町奉行所でカール様をお待ちしていたのですが、突然門が閉まり、ここに居る者もみんな混乱してしまって。結局、くぐり戸から出られたのですが、一応、東町奉行所にも行ってみようという事になり、こちらにきたところです。」
「そうか。今、奉行所を開けるから、待っていてくれ。」
再び、通用口から土間に入り、玄関引き戸2枚を開け、みんなを中に誘導した。
みんなに西町奉行所はしばらく閉鎖にした事を伝え、藤林には東西南北に与力1名と、与力配下の同心を各5名指名するように指示した。
奉行所に勤務する伊賀衆全員に治安維持のため全弾麻痺毒の懐中電灯を装備するようにとも指示をした。
組合長は、集まった配下の住人達に私が奉行である事を伝えているようであった。
奉行所のカウンター付近を徹底的に捜索したところ、ギルドカードが大量に出てきた。
つまりここは、冒険者ギルドと同じ役割をする役所を想定していたのだろう。
早速道路側を冒険者ギルドを兼ねる事とし、後ろが東町奉行所であるとした。
ギルド職員はキョウトから移転してくればいい。
キョウトの役所は数人居ればいいだろう。
また、前側のカウンター奥にも扉があり、開けると土塀を貫通して隣の屋敷と渡り廊下で通じている事が判明した。
ここは奉行の屋敷のようであった。
ここにもセキュリティー端末が取り付けられていた。
この隣の屋敷は奉行所よりも更に広い屋敷だった。
まずは、この屋敷の入口の門をリモコンで開閉できるシャッターに改造する事にした。
これで、装甲車を簡単に出し入れできる。
屋敷には離れの家屋が4棟あり、渡り廊下でつながっている構造のようだ。
この屋敷に与力4家族が住めるようにと藤林に言っておく。
これで私とアイが居なくても、伊賀衆の与力たちが仲良く暮らす事ができる。
すぐさま南北防壁の門番を廃し、同心数名による詰所を確保し、以前から使っていた水晶端末をそのまま使う事にする。但し、南門は車の入口と出口を設置し、車用の橋も掛ける。
1週間程度でオオサカ商人組合の混乱は収まり、治安維持を七曜商事が掌握して、経済活動は現状のままとした。
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