第146話 ヒョウゴの掌握作戦
王国歴 264年9月第1週
王国から食品工場に戻ってきた。
人が居るキョウトの屋敷に出入りする気にはならない。
工場3階の湖が見える場所に休憩室を作ってあるのだ。
本来は守衛休憩室のつもりだったのだが、今では私とアイのワンルームマンションといったところか…。
この部屋に戻ってからも、150m級護衛艦について考えていた。
男には夢が必要なのかも知れない。
あさぎり型護衛艦(全長137m、最大幅14.6m)でも、基準排水量は3500tもあり、エンジンは複合式の54000psというバケモノじみた性能なのだ。
これが、むらさめ型護衛艦(全長151m、最大幅17.4m)になると、基準排水量は4500tでエンジンは複合型の60000psという性能になる。
複合エンジンシステムを使うのは、そもそも出力が大きいエンジンは使用する燃料も桁違いに多く、巡航速度の時などにトルクの小さな回転数で使う事になり、燃費が悪くなるため、小さな出力が欲しい時は、小さなエンジンを最大効率で動かすという発想のようだ。
小型巡視艇には、L2400×W520×H35の16気筒1200psのエンジンを3基使ったのだが、桁が違う。
サンプルとして選んだ護衛艦も、ガスタービンや蒸気タービンエンジンを複合的に使っているようだ。
色々と資料を読み進めていると、ガスタービンは燃焼ガスが高温、高圧力になり、この力でタービンを回す事から、小型軽量なのだが大量の給排気が発生する。
この回転運動を取り出す目的のものをガスタービンと呼び、排気ガスの反作用で推進力を得るものをジェットエンジンと呼んでいるようだ。
本来は高速回転を得意とするエンジンで、短い時間で最高速に達する事から急加速などに向いているのだが、回転数を細かく調整することは困難であり、高いトルクを必要とするものには向いていないようだ。
総じて、大きなエンジンは出力調整が苦手という印象を受ける。
また、ガスタービンエンジンは軽くて、従来の設計のままでは大型艦の重心が上がってしまうらしい。
さて、現実に戻って仕事をしよう。
キョウトを解放して1か月が経過し、忍びの里の住人達は、無事にギルドカードと住む場所を確保できたようだ。
「アイ、午後からヒョウゴの冒険者ギルドに行く。柏木、お静に集合を掛けておいてほしい。」
アイ「承知致しました。」
午後になり、ギルドにやってきた。
前回入った通用口から中に入り、2階へ上がり事務室に入る。
カウンター上の堅牢そうな金属ケースを開けて、水晶装置を取り出す。
私のギルドカードをかざすと、『統治者権限 確認』という表示が3秒間あって、次に『初期設定』という表示に変わった。
だがAIがギルドマスターをするわけにはいかない。
影の存在でなくてはならないからだ。
柏木をギルドマスターに、お静をサブに設定する。
「前にも言ったように、ヒョウゴは甲賀衆に任せる。柏木はこのヒョウゴの冒険者ギルドを甲賀衆を使って運営してくれ。お静は1階の責任者として、受付カウンター、ギルドカードの発行、依頼の整理と掲示などの業務ができるように職員の割り当てと訓練をしてくれ。」
「買取や販売の窓口にも職員は要る。準備期間は2週間は掛かるだろうが、頼むぞ。」
柏木、お静「はい。」
「それとヒョウゴの空き家所在図は出来ているか?」
柏木「はい。これでございます。」
地図を広げて
「このヒョウゴに市場を作りたいのだ。道沿いの家を市場にしよう。」
ヒョウゴは他の都市同様、3万人以上が住める規模があるのだが、おそらく5000人くらいしかいないだろう。
住宅も農地も空白だらけ。
そこで、東西南北の4区画に均等に入ってもらう事にした。
「この角家に甲賀衆を誰か住まわせてくれ。情報収集のための住居だ。」
柏木「御意。」
「では、キョウトに移動する。アイ、ハンゾウとオーロラ、藤林とお絹に二条城で待ち合わせと伝えて!」
アイ「わかりました。」
このヒョウゴからキョウトまでは2時間かかる。
後部座席に柏木とお静が居るが、何やら仲が良さそうだ。
キョウトの西門から中に入り、物流センターに軽装甲車を駐車して、歩いて二条城へ移動する。
おそらく住居だろうと思われる建築中の建物もあるが、単身者寮になった宿も含め、にぎやかでもあり、落ち着きを取り戻した感がある。
畑はまだ1か月しか経っていないため、肥料があっても、驚くほどの収穫ではないようだ。また、商店街はまだ営業はしていない。
基本、配給制に使うため月に2日ほどしか開いていない。
屋敷群を通り過ぎて、3階建てのギルド会館に来た。
ここはキョウトの役所のような位置付けだ。
そのまま二条城に抜ける。
西門から30分、時刻は13時になっていた。
二条城本丸御殿、正式な会議場だ。
「みんないるね。では今日の議題は、ヒョウゴ地域を掌握するため、ヒョウゴの冒険者ギルドも開ける事にした。マスターは柏木、サブはお静だ。」
「キョウトのマスターも藤林、副官はお絹になってもらう。ハンゾウはこのあと手続きをしておいてくれ。」
「キョウトには身元の判明している忍びの関係者しかいないが、ヒョウゴには身元不明な5000人もの人が住んでいる。当然、他国のスパイもいるだろう。」
「そこでキョウトと同じく、ヒョウゴでも全員にギルドカードを持たせて、身元をはっきりさせる。そのため住民には公設市場にて、1人1日銀貨1枚を支給する。」
「ヒョウゴ地域の掌握開始は、10月開始だ。」
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