第140話 セバスとレナを海軍省に
王国歴 264年8月第2週 第2日夕刻
AIカールには朝食を取った記憶がない。
『指令:できる限り朝食などの飲食を取り、成分分析及び味覚センサーで変化を記録。水分補給を行い、排水機構のチェックを励行。固形物は少量摂取でカプセル化して排出せよ。』
AIカールは最後に作った最新鋭の水冷機構搭載機だ。
零下の極寒環境でも基本クロックを倍化で動かせば体温を維持できるし、氷に閉じ込められても心配が無い。
耳や鼻の穴からの浸水対策も施していて、水泳や潜水も可能。
先日のような格闘戦を行うなら、体重が人間並みの水冷方式がいいと思う。
今度は関節技を使ってみたい。
9時前に海軍省長官室に行く。
いつもと違うのは決裁書類が無い事だ。
昨日、全て確認して『可』、『否』のどちらかのトレイに移動してあるからだ。
秘書が居ればお茶を頼むところだが、一般職員に頼む事はしない。
『コンコン』
「ウイリアムです。セバス様とレナ様をお連れしました。」
「入ってよし!」
ドアが開けられ、セバスとレナ、そのあとにウイリアム大尉が入ってきて、敬礼をしている。
敬礼で返したあと
セバス「カール様、お呼びにより参りました。」
「ありがとう!遠いところまで申し訳ない。」
レナ「カール様、お呼び頂きありがとうございます。」
「レナ、うれしいよ。ありがとう。」
「ウイリアム大尉、ライリー少尉とディラン少尉を呼んで来てくれ。」
ウイリアム「はい。」
レナに、6人分のお茶を入れてくれるように頼んで、セバスとソファーに座った。
そして、宰相閣下にタブレット端末を使って、面会を申し込んだ。
宰相の机にもタブレットは置いてある。
就業前なので、朝礼が終わったら、面会予定時刻が回答欄に表示されるだろう。
「セバス、私は1か月ほど掛けて、この海軍省で軍の立て直しをすることにした。新しい船や新しい装置、訓練や漁具なども作らなければならない。はっきり言うが右腕と左腕が欲しくて、セバスとレナを呼んだのだ。」
「セバスとレナには、これまで影の仕事を頼んできたけど、住民登録がほぼ完了した今は、影の仕事は無いに等しい。それと里の若者が王立学園に行くようになって、今後は王国軍の幹部候補生として、各所に配属されるようになるだろう。」
「影の仕事は参謀部、エリオットの傘下になるから不当な差別は防止できる。ところが、この海軍省は私でさえ舐められる部署だ。元漁師が多くて私の存在はまだ認知されていなくて、結構苦労してるのさ。」
「そこで、セバスとレナを私の副官として任命するから、手伝ってほしいんだ。」
セバス「私達でお手伝いできる事があるのですか?」
「うむ。この指輪を渡しておく。この指輪はキョルトの古城跡で見つけた白の魔女の指輪だけど、要は知識を記憶したり、呼び出したりできる指輪で、5個の空の指輪があったんだ。今回アリスから2個送ってもらった。」
セバス「アリス様の貴重な指輪をもらってもよろしいのですか?」
「いや、今は借りているだけだ。将来は、アリスの子供やマリリンの子供に持たせるかも知れない。とにかく、今はこの指輪に、船の事、エンジンの事、魚群探知機の事、レーダーの事などを入れてある。」
セバス「何の事か分からないのですが。」
「セバス、この指輪をはめてくれ。レナ!こっちに来てくれ。お前もこの指輪をはめてくれ。」
セバス「こ、これは何かものすごい知識が入っているようですね。」
レナ「わあー、賢くなったー。」
「約1か月の間、セバスは少佐、レナは大尉になってもらって、私を助けてほしい。頼む!」
そういって、頭を下げた。
2人は一瞬フリーズしたが、すぐに再起動して了承してくれた。
ちょうどその直後に、ウイリアムがライリーとディランを連れてきた。
同時に、宰相からも通信接続要求が来た。
「宰相閣下、おはようございます。」
宰相「カール殿、おはよう。」
「実は、本日付けを持ちまして七曜幹部のセバスを少佐に、同じくレナを大尉に任官致したしたく、承認をお願いいたします。」
宰相「うむ。承認しよう。だが事前の閣議で、長官職の者は事業が黒字である限り、士官の任命、人員の補充は自由裁量で決めて良いとした筈だが…どうしたのだ。改まって。」
「いや、七曜の幹部は私の身内。まして今後1か月は海軍省の立て直しで、彼らにはビシビシと力を発揮してもらうつもりですので、いらぬ中傷もお耳に入るでしょうから。」
宰相「ははは。心配は要らぬ。海軍省は君の好きにしてもらって良い。元々は王国に無かった組織だ。貴族の利権など余計なしがらみは無い。」
宰相「それにしても、セバス殿といえば七曜のNo.2。できればそのまま海軍省を率いて頂ければ、王国としても心強い。」
セバス「お褒め頂きありがとうございます。」
宰相「レナ殿も七曜では『万能の戦士』という話を聞いておる。これからもよろしく頼む。」
レナ「はい。カール様の支えとなれますよう精進してまいります。」
「それにしても宰相閣下、どうしてそのような情報を手に入れたのですか?公表はしておりませんが…」
宰相「婿殿に聞いたのだよ。七曜の7人とは、という話をな。」
「はは。エリオットですか…お忙しいところお時間を取らせました。」(婿殿…主水か…)
宰相「うむ。」
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