第14話 クロスボウ
ダグザ武器屋に到着して、自分用の鋼鉄製胸当てぐらいは必要かな。
そんな事を考えていたら武器屋の防具も作らないといけないなーと思い直す。
今日も鋳鉄剣を練り練りして、鍛鉄剣に改良している。
今日は考え事をしていて20本作ってしまった。
ダグザに防具作成について聞いてみると、防具はオーダーメイドが普通らしい。
既製品なら革製品になるらしく、縫製は自分でするつもりはなく、仕入れで充分だそうだ。
むしろ武器屋なんだから、オリジナルの武器を考えてくれと言われた。
確かに。
どうせ王国騎士団の武器開発担当になるのだろうから、今から色々考察しておかなきゃならないね。
騎士団や守備隊の人は、攻撃手段としての魔法は使えない。
遠距離の弓は、特殊な訓練をしないと使えない。
だからクロスボウが開発されたけど、連射に問題があったんだよね。
ウインチェスターライフル…あの銃のようにレバーを操作する事で、ボルトが装填できるクロスボウ。
ボルトはカートリッジで装着。
あとは、弦を引く時間をどれだけ短くできるか、それが課題だね。
銃床はウインチェスター銃のような形で成型…中空にしないと鉄では重過ぎる。
試作だから仕方ないけど。
薄い鋼鉄を練り練りして、板バネに成型。
色々な長さで作り、焼き入れを行う。
次が弦。できる限り細く、練り練り。
これを焼き入れるのは手間だけど仕方ない。
そしてできた鋼鉄線をより合わせてワイヤーを作る。
ボルトは鋼鉄の15㎝の棒だが、先端は尖らせて。
クロスボウのレールはボルトに合わせて正確に。
最後が、弦を引く機構だ。
糸巻のような物を2つ。
これで弦を引き、ホームポジション位置に弦が来るとき、トリガーの金属をくぐる。
糸巻を倒すと安全装置OFF。
糸巻はレバーを回転させてギヤ比で引く。
メカの作成に1週間。
弦の交換は簡単にできるように改良。
2週間で、一応の形ができたので、通常の鉄板を標的にして試射(動作テスト)。
鋼鉄のボルトなので、とりあえず発射できれば貫通するようだ。
森に移動して、50mで試射。
発射速度が速い板バネほど、弦を引くのは重い。
だが、レバーアクションでのボルトの装着は順調で、詰まりなし。
ボルトは先端からやや斜め上方向にセットされる。
下向きに構えてもボルトが脱落しないように、カバーを追加。
直径1㎝×15㎝の鋼鉄のボルトは、射程50mでは大抵の木の幹を貫通した。
だが、糸巻の土台が壊れてしまう。
弦が強いので糸巻2個を取り付けている土台は鋼鉄2枚で補強し、銃床部分は、木材加工の業者に発注する事にした。
それにしても、部品数が多くて、これを全て私が作らなければならない。
鍛鉄剣は1日に10本に変更だ。
試作したクロスボウは10個。
この10個のクロスボウを分解して組み立ててという工程で、部品を交換して組み立てて、精度にばらつきが出ないかどうかを調べる段階に来ていた。
部品点数が多くなるという事が、これほど完成品の均一性に影響するとは思わなかった。
最終は、部品10個をもう一度『分析』して、同じかどうかの確認と調整をおこなった。
それでも命中精度は変わってしまう。
熟練しなくても、それなりの威力の遠距離攻撃ができる武器なのだ。
立派なものだ。
そして最後の最後は照準自身を調整できるようにしたのだった。
10個の量試品は完成した。
王都騎士団に納入するためには最低150個が必要だろう。
ボルトは30本×150、カートリッジが3個×150。
ダグザ武器店に住居を移した2か月後、150個のクロスボウセットが完成していたので、再び父の元を訪ねて、クロスボウの試作品の操作説明と試作品5個を宰相に送った。
後に、父が王都に呼ばれて、分解組み立て、照準合わせなど説明させられたそうだ。
それから2か月後、やっとサマンサさんの息子の嫁ナンシーさんとエリカさんが見つかった。
南方の国境に近い湖の町バルナという所に居たそうだ。
実はこの町はサマンサさんが、ご主人と新婚旅行にいった町なのだ。
サマンサさんからもらった教科書を見ると、この国の北側は森林の多い寒冷地で現在は獣の支配地。
東側には大きな森があり『帝国』があるらしい。
西側は海に面していて国は無い。
南西は高い山があり、人は越えられないそうだ。
南は大きな湖。
南東には面積は小さいが砂漠地帯で、ワームと呼ばれる魔物が住む危険地帯だ。
国全体から言うとまるでオーストラリアのように外周部に都市があり、旧王都は西側の最大都市。
遷都して初めて中央平原に都市を作ったようだ。
確かに文化レベルが高くならないと水源がない所には、都市は作れない。
段々とこの王都の弱点が見えて来た。
おそらく地下水脈を発見したので井戸を掘り、水源を確保したのだが、防御面では防壁しか無い。
平原なので、他国からの騎兵集団に攻められると弱いから王国魔術師隊は王都に集中させていたのだろうと思う。
それにしても、この時代、まだ水上の移動手段は発達しておらず、南の湖を渡る船など、今まで発見されなかった。
小さな漁船で魚を取るくらいだった南方の町に、突如、小型の双胴帆船が5隻やってきた。
漁民たちはパニックになったが、そこに偶然、ナンシーさんとエリカさんが魚を捕りに来ていた。
侵入者たちは南方の正規軍のようで、鎧を身に付けていて、1隻あたり3人の兵士が乗っていたそうだ。
事前の偵察もしていたのかも知れない。
だが、そこに王国魔術師と加護持ちの孫が居合わせて、風魔法で帆船の進路を混乱させたのだった。
湖の町バルナにも守備兵10名が配置されていたが、主に盗賊対策と治安維持。
それでも矢を使い撃退を試みたが鎧で矢が通らない。
ナンシーさんからの伝言鳥によってすぐに王都に緊急連絡が入り、鋼鉄剣を持つ王国騎士団50名が派遣されたらしい。
相手国の先遣隊15名が引き返したあと、まだ、敵は来ていないらしい。
冒険者ギルドでランニング、腕立て伏せ、腹筋、そして木剣の素振り、守りの型が終わり、昼食の肉料理を食べていると、受付のトレーシーさんに案内されて、王国魔術師の人がやって来た。
「宰相閣下から所長に、クロスボウの納入依頼です。」
そう言って、メモを私にくれた。
「は?僕まだ就職してないと思いますけど…」
「武器1個あたり金30枚だそうです。」
「分かりました。数は?」
「セットを50個」
「了解しました」
それから大慌てでダグザ武器店に行って、クロスボウ納入のための箱の作成をお願いした。
納入は荷車で王都に運び、騎士団が射撃訓練を実施。
その中で命中精度の高い部隊が選ばれて、湖の町バルナに派遣され、先行部隊に合流したのだった。
但し、現地には既にスパイは入っている可能性もあり、クロスボウの訓練はなし。
秘匿兵器扱いであった。
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