第139話 漁業との両立
「今からテストを行うが、その意味を説明する。一つは軍隊、つまり戦力としての組織だ、前列に座ってもらった国軍出身者と守備隊出身者に期待している。」
「そしてもう一つは漁業としての組織だ。今は釣りによる漁法しか知らないが、今後は巻き網漁船団を組織して、沖合で漁をする。この巻き網漁法は魚を探す探索船と獲った魚を冷凍保存し運ぶ運搬船、魚を捕まえる網船で構成される漁法だ。」
黒板を使って、魚を獲るまでを図で示した。
探索船:魚群探知機を使って水中の魚の群れを探す。
探索船:暗くなったら、水中に集魚灯を沈めて魚を引き寄せる。
網船:網船と補助船を使って、魚を囲むように網を沈める
網船:魚が逃げられないように、網の底を絞る。
網船:網を巻き上げて、浅く、狭くする。
運搬船:網の中の魚をすくい上げて、自分の船に取り込む。
「当然だが、船団を統率して各自が役割を果たさなければ、この漁は出来ない。」
「また漁師だけでも、この漁はできない。素早く操船しなければ、魚に逃げられるし、網の引き上げ操作と船の姿勢制御が失敗すれば、転覆する可能性もある。」
役割について黒板に箇条書きにしていく。
漁労長:船団の責任者
船頭:漁の責任者。魚群の発見、探索、最善の投網方法を検討する。
船長:操船の責任者、労務管理責任者。
一等航海士:乗組員のまとめ役、甲板作業の監督、指導
二等航海士:航海計器類等の点検、整備
機関長:主機、補機、漁撈機械、電気系統関連の総責任者
一等機関士:機関長の補佐的役割
二等機関士:一等機関士の補佐的役割
網師:漁網整備、点検、修理
司厨長:食糧、飲料水の積み込み、管理責任者
「今後作る30m級の船は探索船として使う。探索船は2隻。ボートは既にある。その次は150m級の船の建造に掛かる予定だ。この船は網船と運搬船に使う予定だ。現状、戦争相手はいないのだから、魚を相手に訓練するしかない。分かったか?」
会場「はい!」
「30m級の船は探索船のほかに、周辺警備や護衛任務にも使われる。この巡視艇は3隻を作る予定だ。何か質問はあるか?」
守備隊出身者「魚群探知機って…」
「私が作る。心配するな。質問が無いなら、10分後にテストを開始する。準備せよ!」
会場「はい!」
テストの内容は、軍隊の階級制、服務規程など王立学園で学習した内容から始まり、小銃の種類と特性、エンジン機構、バギー車の構造、最後の問題はカール少将の良い点と、悪い点を3ずつ書く問題だ。
ウイリアム大尉「私達は試験を受けなくていいのですか?」
「すまん。君達は現場の監督官として働いてもらう。陸上勤務だ。嫌か?」
ライリー少尉「嫌ではないです。でも将来何を目指すのかと…」
「そうだな…君達は偵察機を知っているか?」
ディラン少尉「あっ、噂は聞いた事がありますが、見た事は無いです。」
「まず、ここは国境だ。敵が来るまで放っておくわけにはいかない。そこで必要なのが偵察だが、周囲は海。だったら空から偵察機で監視する必要がある。この偵察機の弱点は何だと思う?ウイリアム大尉」
ウイリアム大尉「天候でしょうね。」
「その通りだ。そこで魚群探知機の話に戻る。海の中に魚が居るかどうか知る方法が、この機械の技術だ。同じく、海の上や空に何か居るかどうか知る技術があるなら、それを使って監視をしなければならない。この偵察機とレーダーという技術で、敵の存在をいち早く知る」
「知った後はどうすればいい?ライリー少尉」
ライリー少尉「先に叩きに行けばいい。」
「そうだな。どのように、何隻で、などの作戦を考え命令する部署が必要なのさ。勝ち負けではなく、冷静に、味方の被害を最小にしながら脅威を排除する。そんな者でなければ部隊の運用は任せられない。だから君達を選んだのさ。」
3人「………」
「何だ?」
ライリー少尉「私達でいいんでしょうか?」
「いいんじゃない?」
3人「ありがとうございます。」
「明日、リビウ駅に七曜商事の幹部が来る。当分は彼らに海軍省の運営を手伝ってもらうつもりだ。ウイリアム大尉、迎えに行ってもらえるかな?」
ウイリアム大尉「お任せください。」
「君はまだ独身だったね。」
ウイリアム大尉「はい。3人とも彼女はいませんし、海軍省って女性が少ないんですよね。」
「そうなんだよなー何か対策が必要だな…」
さて、漁場があるのか、どこにあるのか、最初は探査船で探る必要がある。
探査船は30m級の船に魚群探知機と海上レーダーを搭載する。
集魚灯は救命テントのように、船体横から浮き輪状のブイからリモートで海中に垂らす設計にしよう。
この船でも快適な生活ができるようにしたい。
巻き網漁はあくまでも船団の訓練の一環なのだ。
優先順位が見えて来た。
まずは魚群探知機。
知識の指輪で検索すると、とんでもなく安い値段でゲーム機か?と思う値段だったりする。
要は超音波の周波数を切り替えて広範囲にも海底まで届くものにもできるようだ。
今回は車のセンサー風に右舷と左舷、前方、後方の4方向に超音波を出し、探査船相互のエコー情報を共有する事にした。
これで広範囲に海底の形状や魚群の分布、回遊状況が分かるだろう。
問題は衛星がないため、位置情報とのリンクができない事だ。
そこでレーダーの利用だ。
この世界では使用電波帯の制限を受けないのだが、新たに試験するのはリバースエンジニアリングの合理性に反する。
(新規開発は面倒というのが本音)
そういう事で、探査距離の長いSバンドレーダーと指向性の高いXバンドレーダーを使って、移動の無い陸地、自船に近づく物体、遠ざかる物体を三角形の方向で示す事ができる。
また、陸地を基準にして位置を計算する事にした。
レーダーの核心技術はマグネトロン。
マイクロ波の発生装置だが、電子レンジの核心技術でもある。
出力が大きいほど遠くまで飛ぶが、電子レンジのように全力で電波を出す訳ではなく、パルスという一瞬だけ出して、反射波を受信するのだ。
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