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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第2章 AIたちの安寧の地
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第138話 海軍省の立て直し


【海軍省】


定期訪問で海軍省に来ているAIカール。


彼との音声モードでも幹部達の緊張感の無さに気が付いていたのだが、輸送ルート構築の際に通信設備を強化して画像伝送速度が向上したので、キョウトでAIカールとのリンクを接続している。


確かに現状では、海上の敵は発見されていないし、第一に沖合を監視する敵船がいないのだから仕方ないのだが、263年4月に研究と建造を開始した巡視艇を漁船として転用しても構わないと言ったきりで、1年4か月が経過した今でも完成の報告を聞いていない。


事務職員も、海軍省長官室に決済書類を持って来ただけで、何も言わずに帰ってしまった。


早速、フエキの屋敷とつなぎ、鉄道を使ってセバスとレナに海軍省に来てもらう事にした。

とりあえず、今日は決済書類だけは片付けておく。



夕方からドックに見に行ったのだが、職人の姿が無い。


聞けば、小型巡視艇の外装とエンジンが出来たので、ショコラ工場が本来の職人たちは帰ってしまい、漁船に転用を訴えていた職員と漁師たちは、船室以外の必要な設備や竿釣り以外の漁法は知らないのだ。


そんな人員で結論の出ない名ばかりの研究よりも、高速哨戒艇の操縦の方が圧倒的に楽しく、ボートレースも間近に迫っていた。


海軍省職員を呼び、明日朝から全員試験を実施する旨を伝え、会場の手配をするように、指示書を作成して渡した。



翌日朝10時、海軍省のパーティーに使用される大きな会場に、会議室などの机と椅子が運び込まれ、臨時の試験会場が設営されていた。


教卓はあるのだが、黒板が無い。

そこで、積極的に動いている者の名札をズームで見ると『ウイリアム・ブライ』と書かれていた。


今意識はここにあるが肉体はAIカールだ。

ズームができるし、採用者名簿のデータも腹部に入っている。

検索すると『元貴族』で漁村出身の王国軍兵士だった。


「ウイリアム君、すまないが会議室から黒板を持って来てくれ。」


ウイリアム「あっはい!只今。」


そう言って、仲の良い3人で会場を飛び出して行った。


データでは同じく王国軍からの転籍者だ。

1フロアー下から3人が階段を使って黒板を持って来て、教卓の横に置いてくれた。

3人には『手伝いを頼むから、ここで待機。』と指示を出す。


10時になり、王国軍出身者は既に席に着いている。


守備隊出身者もあらかた席に着いたようだが、まだ、ぞろぞろと後ろのドアから入ってきている。


「諸君、王国軍出身者は前の席に順に座ってくれ。次に守備隊出身者が続いて座ってくれ。」


5分経過して、ようやく席が埋まったようだ。

だが、また再び後部ドアが開いて調理人などの5人組がお辞儀しながら入ってきた。


「やあ、ルカ、ボビー、ドンナ、それと2人の手伝いも来たのか、ついでだから君達も話を聞いてくれ。」


そういうと、なぜ名前を知ってるのか!と驚いた表情で、最もドアに近い席に5人は座った。


「さてと、私が海軍省長官のカール少将だ。君達が海軍省に採用されたのが262年4月。今は264年8月だから早い者は2年と4か月になる。この間、高速哨戒艇の操縦や自動小銃の射撃訓練、陸戦の基礎訓練もしたのだろう。」


「だが、最も大切な組織としての役割はどうだろうか。船の構造、整備の訓練を受けた筈だ。」


「これから各自が保有している知識をテストとして確認せてもらう事にする。テスト結果で得られた君達の『保有知識量』と、今後の訓練の成果で示される『技能』により、各自の職能に応じた階級制を持って待遇する事とする。」


「まず本日只今を持って、ウイリアム・ブライを大尉に、ライリーとディランは少尉に任官する。」


?「おいおい、どういう事だよ…」


最後列の体格の良い奴から、文句が出てきた…。

名札をズームすると『ルーカス』と書いてある。

データでは地元漁師の親方だった男だ。

表情に、へへという薄ら笑いの口元の形状に見える。


教卓には椅子はない。

彼まで40mほどあるだろうか。


AIは普通でも人間の2倍くらいは早く動けるが、高速モードに入れて、彼の胸元を持ち上げるまで3秒。


『うっ』という曇ったうめき声を聞きながら、長机の前まで引きずり出し、一杯になった生ごみの袋のように、彼を教卓の場所まで一気に投げる。


『ズガーン…』


何とか顔面が机に当たらないように手の平で、机を受け止めたようだが、教卓ごと後ろの壁に衝突した。


男「う、うう…」


恐らく怪我はしていないだろう。

男の所まで歩いて戻るあいだ、思うことを口に出す。


「ふん。舐められたものだなー。これでも女の子には見えない程度には鍛えたつもりだったんだが…」


「軍隊に必要な事は何だか分かるか?統率だよ、統率。命令に従わない者は組織の命取りになるんだ。」


彼の胸倉をもう一度掴んで、驚愕の表情のルーカスを、今度は背負い投げで途中で手を離し、再び反対側の壁まで投げ飛ばす。



『ど~~ん、ずずず…』


今度は口から血が出ていた。

恐らく肋骨が折れて肺に刺さったのかも知れない。

全身打撲の状態でもあるだろう。

すぐに分析して、骨折を、内臓の損傷を、脳震盪をヒールで治す。



AIカールは通常のヒールしか使えない。

ハンカチを出してルーカスに渡す。


「ルーカス、お前、いつも勝手に高速哨戒艇を使って釣りをしているそうだな。宿舎の掃除も人に押し付けて、まるでやくざの親分のように振舞っているんだって?」


「フィン!トビー!ルーカスを牢に入れておけ。お前たちは牢番だ。勤務時間中見張っていろ。」


子分たち「はい。了解しました!」


敬礼の姿勢で返事をするこの2人はルーカスの子分だ。

一緒に牢に置いておこう。


「まー、その返事なら、フィンとトビーは軍法会議は勘弁してやろうかな…いけ!」


ビビる2人がルーカスを連れてドアから出るのを、会場の全員が見つめていた。




お読み頂き、ありがとうございます。


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