第137話 アイのブートキャンプ
ワカヤマに侵入して来た荊州の蛮族がどうなったかは不明だが、忍者組と合流したカールは、ただひたすらに東を目指し走っていた。
だが、合流した時点で既に夕刻になっていた。
二条城で見たキンキの地図では、熊野村があると思われる山から少し北側には永安渓という川が流れていた。
そこで、途中でやや南にルートを取り地道を走る。
時速は約25km。
既にヘッドライト無しでは走れないため、最初の村でキャンプにした。
無理は禁物だろう。
翌朝6時、キャンプを畳んで出発。
約5時間弱で熊野村の北側、狭い平野部に車を停車し、カップ麺だけを食べて車に偽装網を掛け、熊野村に向けて歩き出した。
ハンゾウ「カール様、もう少し休憩を取ってもよいのですよ。」
「うむ。分かっているのだけど、じっとしていられないんだ。この場所から既に森は見えているけど、標高差もあり途中から背負ってもらう事になりそうだ。その時は頼むよ。」
------------------- アイ ------------------
昨日は3時間登って30分休憩を繰り返し、22時にキャンプをした。
彼らは忍びの筈なのだが、夜間の行動訓練をしていなかったようだ。
昼間しか動けない忍び?そんな馬鹿な。
とにかく、16kmしか進めていない。
村まであとどのくらいだろうか…。
夜間に来た道を戻り、罠を仕掛けていく。
草をくくった簡単な物から、毒矢を埋めた物まで、とにかく奥に進もうとする気持ちを折る事を目的にしたものだ。
ついでにキノコや薬草を採取。
翌日、25時に全員を叩き起こし、再び歩き出す。
忍者にとって最も活動しやすい時間帯だ。
4時半に休憩。
簡単に朝食を作り全員に食べさせていると、夜が明けてくる。
東の空が明るい。
ここで彼ら自身に柔軟体操をさせる。
覚える事がたくさんある。
8時半、川のほとりで再び休憩に入るが、足を怪我している者もいるようだ。
ほぼ全員、靴を脱いで足を洗い、河原に並べてヒールを掛ける。
若者「アイさん、回復魔法が使えるのですか?」
アイ「見れば分かるでしょう。君達は本当に忍びなのか?任務遂行のために薬学などは必須の筈。もちろん、私などはカール様のご指導でヒールも使える。それでなくてはお側にお仕えする事など叶わぬ。」
ほぼ全員が泣いている。
自分の不甲斐なさに泣いていると思いたい。
もしそうであれば、今後の努力次第で戦力にはなるだろう。
全員の頭を軽く叩いて
アイ「いつまでも泣いていないで。さあ、靴を履いて出発するのよ。」
ここから先は1本道ではない。
罠は終わりだ。
結局この日は24kmを走破した。残り36km
翌日、再び25時に全員を起こし歩き出す。
4時半に休憩を取り簡単に朝食を作ると、彼らが全員に配り始めた。
今日はスープにポーションを混ぜておいた。
昨日同様、東の空が明るい。
ここで彼ら自身が自主的に柔軟体操を始めている。
彼らは目に見えて進歩している。
8時半、川のほとりで再び休憩に入るが、怪我をしている者はいない。
全員が靴を脱いで足を洗い、河原で並んで乾かしている。
軟膏を渡すと、みんなで回して使っていた。
アイ「たった1日だけど、君達は随分と進歩したようね。忍びの見習いくらいには成ってきたと思う。恐らくカール様は忍びの総帥、ハンゾウ殿を連れて来ておられるだろう。ご指導が頂けるように精進するが良い。」
青年「忍びの総帥…」
アイ「ハンゾウ殿とオーロラ姫だ」
カールたちが標高の高い熊野村に到着して、無指向性アンテナを付けたのだろう。
カールとアイは意識を共有できていたのだ。
あと28km。
明日には到着できるだろうと、やっと落ち着いたアイだった。
------------------- カール ------------------
ハンゾウとオーロラを呼んで、事情を説明する事にした。
「アイは忍びの里に居た20人の若者たちを引率してこちらに向かっている。彼らは明日にはここに到着するだろう。ハンゾウは忍び達の総帥として、彼らを指揮、教育してもらいたい。」
ハンゾウ「はは。カール様のご指示とあらば。」
「オーロラは同じく、忍びの姫として同じように彼らの面倒を見てやってくれ、まずは実力を見てから訓練をしてくれ。」
オーロラ「はは。仰せのままに。」
「(お前達全員、本当にノリがいいなー感心するよ。)」
ハンゾウ「(お褒め頂いたと解釈し、一層の努力を致します。)」
「(とにかく、命が守れるように、最低限の教育を行ってくれ。)」
オーロラ「(了解。)」
この世界の熊野神社。
お社に入る木製の幅広い階段を上る。
中は同じく抱えられないほどの太い柱を使った木造建築だ。
ろうそくの明かりの中、中に進むと更に階段がある。
見るとそこからは畳敷きになっていた。
当然、靴は脱がなければならない。
前方を見ると、蓮の花をかたどった台座が中央に置かれていた。
フリアノン像の製作に取り掛かろう。
ここにある使える材料としては土しかない。
庭に出て森林の側の土から錬金術を使ってケイ素を取り出し、中空のフリアノン像をガラスで作り出す。
次に不純物を混ぜて、透明から乳白になるように全体に不純物をかぶせていく感じ。
底部には分かるように、羊皮紙に血液で光の魔法陣を書いていく。
最後が魔石を乗せて像は出来上がり。
重さと重心調整から底部に粘土の層を引っ付けて完成した。
私はこのあと、蓮の花の台座の上にフリアノン像を設置した。
昼でも薄暗い本堂にうっすらと光るフリアノン像。
本堂にいる者達の祈りの精神波に反応するようにプログラムしたのだが…。
今日はここで寝てしまおう。
そう思って仰向けになったのだが、さすがに山の頂上は冷え込む。
オーロラ「カール様、階下の物入れにお布団がありますので、お持ちします。」
この夜、この畳の間でお布団に入り、即、眠ってしまった。
翌朝、オーロラの胸で目が覚めた。
アイよりも小振りだがカップ数は一つ二つ上だろうか。
トランジスタグラマーという表現が似合う、そんな印象だ。
オーロラ「おはようございます、カール様。標高752m、酸素濃度は92%ですが、血圧、脈拍には異常はありません。朝食になさいますか?」
「ありがとう。」
一体いつ私の布団に潜り込んで来たのか全く記憶にない…と思いながら、顔を洗い、歯を磨いて戻ると、オーロラ達が採取した山菜などを中心にした朝食がお膳で差し出された。
この日、アイと隠れ里の若者20人が合流して、ハンゾウとオーロラの特別訓練が3日間に渡って行われた。
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