第132話 公家とは
私の世界での公家とは、朝廷に仕える貴族の呼び名であった。
最も位の高い者達は摂関家と呼ばれ、全て藤原道長の子孫たちだ。
摂政や関白を出す家柄の事であった。
このクラスの者達を次第に屋敷のある地名で呼ぶようになる。
それが、近衛、九条、二条、一条、鷹司の五家であった。
ここキンキにも五家の屋敷があり、そこに公家を名乗る者の親戚達が住んでいる。
ハンゾウ「中心人物の公家は、最奥の大きな屋敷に住んでいるようです。」
「ハンゾウの言う屋敷とは、この突き当りの建物か?」
ハンゾウ「違います。ここから見えるあの3階建ての屋敷は冒険者ギルドと思われますが、中に入れないそうです。ギルドの奥に掘りに囲まれた城があり、そこが公家屋敷と呼ばれている場所です。」
「二条城だろう…」
ハンゾウ「ご存知でしたか…。堀の西側と東側に橋が架かっていて、西側には太鼓と見張り台があります。時刻を告げる太鼓かとも思いましたが、屋敷に近づかないと太鼓の音は聞こえません。」
ハンゾウ「また、屋敷から東門へ抜ける地下道があり、これを使って時々帝国と交易をしているようです。」
「そうか…」
ハンゾウ「どういたしましょう?」
私は本来の公家の概要を説明した。
要は朝廷に仕える貴族の総称であり、特定の人物を指す言葉ではない。
そもそもは天皇ではあるが、この世界であれば神に仕える者が名乗るべきものだ。
それなのに低能豪族が名乗っているのだ。
「引き上げよう。この町には価値がないし、下手をするとバチが当たる。境界森林の近くに車を停めてある。南へ下って『魔境の森』を見てから、オオサカにも行ってみたい。」
アイ「賛成!久々にカール様の笑顔を見ました。楽しみですね。」
「うん。魔境の森に何があるのか、本当に楽しみだ。明日の朝、キョウトを出るから、今のうちにキョウトを探索しておこう。アイ、行こう。」
アイ「はい。食後の運動ですね。」
宿を出た我々は、規制されている東側の一角を除いて、歩道のある場所を歩き回った。
この世界で初めて見た竹林、落差はないが人工の崖から落ちる滝。
私の眼には偽物パークに映るのだが、アイには新鮮だったようだ。
宿に戻り、軽い夕食をと考え、野菜スープだけを頂いた。
明日のチェックアウトを伝えていたので、店主と女将さんが忍者組にお世話になったと挨拶に来た。
5歳と3歳の小さな子供もいるらしく4人家族だ。
これからの暮らしに不安があるという。
「その時が来れば、ヒョウゴのナカヤマさんを訪ねなさい。」
そういって、ポケットから銀粒を3つ取り出して手の中でグニャグニャと混ぜて、小さな七曜家紋のコインを作り出し、彼らに渡した。
今は境界森林の近くに停めた装甲戦闘車に向かって広い街道を歩いている。
昨日との違いは忍者組が一緒で4人という事だ。
宿の人が朝食の代金を受け取りそうにないので、早朝に出発したのだ。
キョウトの南側防壁から細い道に進み、東門が見えてきた。
境界森林の近くに停めた装甲戦闘車に近づいていたのだが、ここまで見送りに来てくれていたオーロラとハンゾウが車に群がる不審者を発見し、排除に向かう。
ハンゾウ「(捕らえますか?)」
「(いや、不審者を逃さない事を優先。可能なら尋問しよう。)」
オーロラ「(了解。)」
ハンゾウが逃走路を塞ぐため森林側へ回り込み、オーロラが見張り役の男に声を掛ける。
オーロラ「おい!貴様!」
不審者たちがこちらに向いたところで、オールラの懐中電灯が光り
「うわっ」
目を奪われた見張りを、懐中電灯の痺れ矢で昏倒させ、同じく、車のドアガラスに大きな石を当てていた男が閃光のタイミングから逃れ、オーロラに向かって来た所を、アイに切り捨てられた。
こちらからは見えなかったが、ハンゾウは車の後ろに居た男の腕をねじり上げ、あっさりと捕えていた。
「あーあ」
ポリカーボネートとシリコーン接着剤、ポリウレタンで構成される多層構造の強化ガラスとは言え、流石に傷が付いてしまっていた。
厚み3cmのこのドアガラスには、上下するスライド機構は無い。錬金術で傷を修復しておこう。
車のチェックをしている間に、ハンゾウは捕らえた2人を尋問していたが、単に境界森林に中型獣を狩りに来たキョウト一条家の屋敷に住む者たちだった。
我々の目撃者を帰す事はできないので、森の中に埋めていく。
装甲戦闘車は私が運転し、南北を走る街道に出るところで忍者組を降ろし、彼らはヒョウゴの様子を見てから本社に戻る予定らしい。
南西へ120kmほど行った所にオオサカがあるらしい。
馬車だと4日は掛かるのだろうか。
つまり、現在の中国でいうところのハンチョウ(杭州)あたりになるのだろう。
「アイ」
アイ「はい。」
「お前は知っていると思うが、オリビア、オーロラ、レミが寂しいだろうと思い作ったのが、ムサシ、コジロウ、ハンゾウの3人だ。」
アイ「はい。知っています。」
「人間から敵対視されないように、夫婦として偽装しながら、平和に暮らしていけるように、という思いだった。だから、忍者組、戦闘組、生産職組、ともに仲良くしてくれたらと思っている。」
アイ「はい。彼らにもカール様の思いは伝わっています。」
(今、伝わっているんだろうな…)
「彼らもいつかは部品が壊れ、魔力が尽きる時がくるだろうけど、私の息子、娘達が、それを修理してくれて、再び、息子、娘達に仕えてくれると信じている。」
「だが、アイ。お前だけは私と共に朽ち果てる事になる。それでもいいか?」
アイ「はい。もちろんでございます。」
前列のシートから後部貨物席に行き来できるようにしたため、運転席と助手席の真ん中に空間があって、お互いに抱き合う事は出来ないが、シートベルトを外して精一杯に体を伸ばしてキスをした。
何だかおかしくて、小さく笑い合った。
それから1時間約60km地点。
ここに来るまでの、この2車線の街道には、まるで高速道路のように数多くのパーキングエリアが道路わきにあった。
もちろん自販機は無いが、駐車空間も豊富にあり、キャンプも可能だ。
我々は興味本位で各パーキングエリアを訪問していたのだが、オオサカまでの中間地点という事で休憩をとる事にした。
再び1時間ほど走り、オオサカの防壁前にやって来たが、そのまま装甲戦闘車で門前に並んでいる。
正直、隠すのも面倒なのだ。
門番がやってきたが、この車の窓は開かない。
アイが車から降りて門番と話をしているのだが、よく聞こえない。
「(言語共有)」
アイ「(言語共有セット)」
門番「……恐ろしい物を中に入れる訳にはいかん。」
アイ「ここに置いていけと?」
門番「いや、それも困る。」
アイ「では、具体的にどうすればいいのか、どなたかに指示を頂いてくれば良いのではありませんか?」
「(何をやっても困りそうだな。次に来るまでに対応を考えておいてもらおう。)」
アイ「では、次に来るまでにどうすれば良いか、確認しておいて下さいね。」
アイが助手席に戻ったので、防壁を迂回するルートに向けて旋回する。
そういえばキョウトの南側には、伊賀や甲賀といった忍びの里があった。
そして、今のその場所は、入る事ができない『魔境の森』と呼ばれている…。
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