第131話 キョウトの公家
王国歴 264年7月第4週
アイ「カール様は働き過ぎですから、のんびりするのは賛成です。」
いやいや。24時間働く君達に『働き過ぎ』と言われるのは心外だ。
「アイ、自転車でキョウトに観光にでも行こうか?」
アイ「構いませんが、100kmほどありますよ?」
「そうか…じゃ、装甲車で行くか。」
装甲戦闘車でキョウトの東側、境界森林近くに車を停め、偽装網をかぶせておく。
この境界森林の南側が、どうやっても元の位置に戻ってしまう『魔境の森』だ。
歩いてキョウトの東門まで来たのだが、この門は許可された業者に限り使用が許されている門であった。
何でも公家屋敷の裏側に通じるため、一般人は使用できないとの事。
帝国に対しても警戒はしているようだ。
仕方なく、大きな都市の外周路を歩く。
南側まで来ると2車線分の広い道路と合流した。
相変わらず歩道スペースは無いので、馬車が前後から同時に来ると、怖い思いをする。
しばらくして、キョウトの西門が見えてきた。
キョウトは馬車の出入りが多いんだな…と思っていたのだが、みんな西門を通過していくではないか…。
西門の門番に、通過する馬車を指差して
「この先に馬車を停めるところでもあるのですか?」
門番「ないない。あれはみんなヒョウゴに行く馬車だ。近頃、キャベツの瓶詰やら野菜炒めやら、美味しい野菜料理が食べられるらしくて、オオサカの連中がみんなキョウトを通り過ぎて行きやがる。…て、お前たちはキョウトに入るんだろ?」
「うーん、どうしようかな…入場料って高いんでしょ?」
門番「あー、でも出入りしなきゃお金は要らないんだ。3日も居れば元は取れるさ。な?入ってくれよー。今月はほとんど人が来てないんだ…。このまんまじゃ、給金を減らされちまう。」
じゃー、という事で入る事にした。
1人銀貨1枚。
中が覗けないようになっていた門をくぐり、左右の石畳みを歩く。
馬車道並みに広い道にはほとんど人はいない。
道路との境界になっている背の低い土塀の奥は畑のようだ。
だが、所々土塀の切れ間から見る畑には、作物が植えられていないようだ。
そのまま直進するしかないのだが、道の左右にはお土産ものなどの商店が並び、まるで門前仲町のように狭くなる。
主に中型獣の毛皮で作った服、くつ、ズボンなどの毛皮加工の店や、麦わら加工品、貝殻加工品、木工工芸品などが多い。
どうやらキョウトでは、原料を仕入れて加工して売る、加工業者が主なようだ。
一方、食糧や菓子などの店は見られない。
商店街を過ぎると、右側に宿屋らしき店が並び、左側は空き地になっている。
全てでは無いが、2軒目は1階に『お食事』と看板が掛かっていた。
2階と3階が宿のようだ。
「(アイ、忍者組を呼び出してくれ。)」
アイ「(分かりました。)」
以前は『了解』と言っていたのだが、最近は『分かりました』と柔らかく言えるようになってきた。
アイ「(この宿にいます。)」
ちょうど、目の前の『お食事』と看板が掛かる『越後屋』という宿屋の3階に部屋を取っているらしく、この宿に入る。
女性「いらっしゃい。食事ですか?宿ですか?」
「とりあえず、食事で、部屋も頼む。」
女性「食事はあの3種類から…どれでもすぐに作れます。」
豆類と筍の煮物、焼き肉のスライス、焼き鳥…か。少し考えていると、
ハンゾウ「焼き鳥がおすすめです。」
という声と忍者組の二人の姿が見えた。
偽名を使っている場合もあるので、手で『よー』という合図だけしておいた。
女性「あんた達の知り合いかい?」
オーロラ「はい。私達のご主人です。」
その声を聞いて、宿の女性は礼をして厨房へ向かっていった。
ハンゾウの話ではこのキョウトでは食材が乏しく宿屋も困っているらしく、忍者組が食糧を何かと調達してあげているらしい。
焼き鳥の鳥も2人が獲ってきたものだそうだ。
そのお蔭もあって、3軒並んだ宿屋の中でも、この宿屋だけが食堂を営業できているらしい。
焼き鳥をほぼ一人で食べて、忍者組の隣の部屋を取ってもらって、部屋で話を聞くことになった。
偵察任務のひとつ、この町の財政状況だが、さっぱり分からないという答えだった。
入場料と住民税は確かに高いのだが、総金額はかなり低い。
町が出来た当初、公家に縁のある者達だけが、住民と認められて豊かな環境で安全に暮らせる事ができたのだが、何せ農民が少な過ぎた。
公家としては、住民は親戚縁者を中心とした者達と、自分達の権威に群がる者達で充分な生活ができると予想していたのではないか、というのがハンゾウの推理であった。
帝国に居る時にそういう暮らしだったそうだ。
しかも、見事な屋敷群を持つ町。
立派な防壁もあって安全に観光ができる町に、観光客が絶える事は無いだろうという目算もあったのかも知れない。
だが6割の税と聞いて、ナカヤマさん達が出て行った事で商人がいなくなり、資金を貸す相手がいなくなり、貢物をくれる者もいない。
経済活動がお金を循環させて、親戚たちも利ザヤを稼いでいたのだ。
使用人達もどこへ行ってもそれなりの家が手に入るのだ。
小作人のような生活をする必要はもうなかった。
それに気づき、しばらくして出て行ってしまった。
どうやら使用人達が畑で育てた作物を持って帝国に物々交換に行ったみたいだ。
肉と交換した使用人達は、そのままキョウトには戻らなかった。
肉を串焼きなどにしながら金銭を得て、オオサカに行ったそうだ。
ここキンキでは、食糧を得られる手段を持つ者が強者であった。
住民が減り、親戚たちの中にも失踪者が出ているにも拘わらず、公家一族からの告示は何も無い。
この宿の主たちも『どうせ体ひとつで来たんだ。
出て行く時も同じでいい』と、覚悟はできているそうだ。
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