第130話 ナカヤマ商会の吸収
輸送ルート構築の旅で、思った以上に疲れていたのか、久しぶりに私からアイを求めて、甘えて癒されたあと、同じく久しぶりにAIカールと情報交換を行い、エリオットの結婚披露宴の映像を見せてもらった。
既にムサシが南方方面軍に置いてきた装甲戦闘車を取りに行き、戻っているため、食品工場の守りは問題ない。
レンタルした車と別の、もう1台の移動販売車は、七曜商事直営の屋台として、料理を提供している。
今はまだ小麦が出来ていないが、出来ればパンの製造販売もいいだろう。
調理と販売はレミとハンゾウがしている。
キョウト、ヒョウゴだけでなく、オオサカにも時々足を延ばして情報を得ている。
物販よりもこちらの方が得られる情報の種類が多い。
王国歴 264年7月第1週
移動販売車のレンタル開始から1か月が経ち、契約更新について話し合うために、ナカヤマ商会を訪ねていた。
以前に商会ビルを見た事があって『立派だな』という程度の印象であった。
しかし考えてみればこの建物は神が作ったもの。
彼らの技術ではない。
一方、我々は湖上の目印として高速哨戒艇のビーコンに反応して浮かび上がる発光ブイを進路上に浮かべ、それと対をなすように、キンキ食品工場の最上部には避雷針、監視カメラ、パラボラアンテナ、赤色回転灯が設置されて、陸からも極めて目立つ存在になっていた。
既に王国との輸送ルートが構築できた私たちは、レンタル契約を延長する理由がない。
だが、商人たちも今更手放すつもりもない。
そこで、『経済的支配』の目標を達成するべく、ナカヤマ商会を丸飲みする方向で提案をする事にした。
「何度も言いますが、私は先進的な技術を他の商会に渡すつもりは無いのです。そちらのお嬢様を政略結婚に娶るつもりもありません。」
ナカヤマ「何か妥協案はありませんでしょうか?」
「どうしてもとおっしゃるなら、一つだけ案があります。」
ナカヤマ「それは何でしょうか?」
「他の商会に渡すつもりは無いと言いました。つまり、ナカヤマ商会が七曜商事の傘下に入る事です。これは単に下請けになるという事ではありません。」
ナカヤマ「もっと詳しく教えて下さい」
「具体的に言えば、ナカヤマさんがオリビアから命令される立場になるという事です。」
ナカヤマ「喜んで!」
お嬢さん「お父さん!」
「ははは。まーこれは極端な例として、会社の経営権を失います。従って、どこに、どれだけの投資をするとか、誰を採用し、誰を解雇するかの人事権も失います。そして、七曜商事ヒョウゴ支店として再出発する事になるのです。」
ナカヤマ「なるほど…」
「その代わり、移動販売車は使えます。将来的に増やす事も可能です。但し、人に奪われないように改造してからになります。」
「それと、私達が今後作るであろうパンや生鮮食料品を販売して頂く事が条件です。」
ナカヤマ「畑を耕すのですか?」
「ナカヤマさん、ヤスケさん、ん~と番頭さんは?」
お嬢さん「私です。」
「では改めて、ナカヤマさん、ヤスケさん、お嬢さん、今から我々の工場へ来ませんか?」
そう言って、工場見学に来てもらい、実り始めた麦畑やキャベツ畑などさまざまな作物工場を見てもらった結果、ナカヤマ商会は7月末で閉店し、七曜商事ヒョウゴ支店としての再出発する事が決まった。
ナカヤマ商店は、このヒョウゴに来るまでは、キョウトに居た金持ち相手に商売をしていたと言っていたはず。
「ナカヤマさん、あなたがキョウトを離れる決心をしたとき、どうしてオオサカに行かなかったのですか?」
ナカヤマ「えっ」
「聞き方を変えると、ほとんどの商人はオオサカに行ったのに、貴方だけがヒョウゴに来た理由はなんでしょうか。」
ナカヤマ「ああ。オオサカ商人組合の連中ですね?彼らは商品を作る職人でもあり、その自作の商品を売る商人でもあるのです。だが、私は違う。私はキョウトで公家を名乗る彼らの親戚だったのです。」
ナカヤマ「商人組合員は金物や木工、装飾品、衣服、靴、武器、防具、などの職人達で、新参者は受け付けません。私はそんな彼らから、公家が要求する物を品定めし、まとめて揃えて納品する商人だったのです。」
ナカヤマ「公家の彼らは元々ロサンゼルスの地侍で、戦闘力で地位を得ていた。偵察も諜報も担当していた筈だが、セントラル帝国兵が大規模に侵攻してきた時に、いち早く逃げ出したのです。」
彼らはキョウトに住まいを移し、東側に建設されていた屋敷に居を構え、以降『公家』と名乗っているらしい。
ナカヤマ「それに対し、私達は郷士という合議制の政治家だったのですが、ちょうど町から50km西の漁村に仕入れに出ていた私達3人だけが助かったのです。後から逃げてきた町人の話では、当然、店は略奪されたそうです。」
ナカヤマ「後からキョウトに入った私達に対する公家の対応に腹が立ち、今度は庶民の役に立つ商売をしたかったのです。でも、オオサカ商人組合には生産者では無いので入れない。だから私はヒョウゴに来たのです。」
「なるほど。だったら、その夢を実現しましょう。」
ナカヤマ「えっ、どうやって?」
「私が全ての農産物を作りあなたに卸しましょう。でも、あなたは売り方を知らないでしょう?」
私がヒョウゴで公設市場を作ればいいのだ。
日本のスーパー形式は、購入者側のモラルに頼るシステムであり、万引きや商品ラベルの貼り替えなどで困る事は目に見えている。
いろんな種類のお店がたくさん入っている公設市場の感じが楽しくて私は好きだ。
お読み頂き、ありがとうございます。




