第126話 キンキ地方
翌朝、アイに起こされてから貨物室から出ると、キャンプ場の全容らしきものが見えていた。
我々の車4台は、街道に向くようにバックで侵入者を阻むように駐車している。
広い空き地の中心部はキャンプ場のように石でかまどが作られていた。
その周囲はロータリーのように、幌馬車が3台縦列に停めてあるが、そのロータリーの奥にテントが張れるようになっていて、馬は林の奥、小川の水辺に繋がれていた。
ロータリーの外に並べられた盗賊達の遺体があった場所には、彼らの所持品や服などが山のように積まれ、既に遺体はその横に穴を掘り、埋めたそうだ。
周辺の血で赤くなったであろう地面は、すでにAIらによって土がかぶせられ、所々にその痕跡が残るのみ。
ヤスケ「カール殿、昨夜はお助けくださり、ありがとうございました。また、オーロラさん、オフィーリアさんに我々の怪我の治療までして頂き、感謝致しております。」
オーロラとオフィーリアは私が眠ったあと、護衛の冒険者たちの傷を治療したらしい。
「そうですか…彼女達は元々は医師ですから、それが彼女達の喜びなのでしょうね。」
ヤスケ「お医者様だったのですか…」
「それにしてもヤスケさん、あなたはただの冒険者ではないようですね。言葉使いが冒険者のものではない。」
ヤスケ「あっ、失礼しました。私はナカヤマ商会の手代で、主に護衛の手配や代官との交渉など、外向きの用事を仰せつかっております。」
「なるほど…では、あとの4人は冒険者なのですね。」
ヤスケ「はい。」
アイ「旦那さま、お話し中申し訳ありませんが、馬車と足並みを揃えると時間が掛かり過ぎると思いますので、幌馬車は装甲車で牽引いたしましょうか。」
「そうだな、それがいい。取り付け金具を作るから、幌馬車を装甲車の後ろに持って来てくれ。」
アイ「了解しました。手の空いている人は手伝って!」
オリビアとムサシが出て来て、幌馬車を装甲戦闘車の後ろに引っ張ってきた。
2頭引きの馬の皮ベルトと鎖を取り外し、後部貨物室の下にある牽引フックから、幌馬車の同じ高さ位置2か所に三角形になるような金具を錬金術で作り出し、幌馬車には大きなネジで固定した。
ガシャガシャと大きな音がしたためか、ナカヤマ店主が起きてきた。
ナカヤマ「カール殿、出遅れました。すみません。」
「いえいえ、ヤスケさんに現場を任せておけば大丈夫ですよ。」
ナカヤマ「あはは。恐れ入ります。」
オリビアが早速、店主の腕に胸を押し付けながら挨拶し、お茶のテーブルに引っ張っていった。
「(オリビア、彼からこのキンキの事や貨幣価値など、何でもいいから情報を取ってくれ。頼んだよ。)」
オリビア「(はい。お任せ下さい。)」
ハンゾウ「(カール様、キャンプ場から5km先に盗賊のアジトを発見、制圧し、金品などは街道からほど近い場所に置いています。)」
オーロラ「(人質はいませんでした。)」
「(それで、誰か戻って来ないか、監視しているのか?)」
オーロラ「(はい。そうです。)」
「(全員に通達。まもなく移動を開始するが、馬を3頭ずつオフィーリアとコジロウが運んでくれ、先頭は道案内を兼ねてオリビアが運転、店主を助手席に。)」
「(その後ろ車は幌馬車を牽引しているから、お互いの車間距離を10m以上取って運転してくれ。2台目は私。3台目の移動販売車はムサシ。4台目はアイが運転し、忍者組と合流したら、オーロラと運転を代わってくれ。以上)」
軽装甲戦闘車の貨物室は、下が収納のベンチシートがあり、左右2名の4名が乗れる。
だが、先頭の助手席に店主がいるので、同じ車には手代を乗せるのがいいだろう。
冒険者4名は、移動販売車の貨物室の片側に同じくベンチシートがあるので、そこに2名ずつだな。
アイに指示して、店主、手代、冒険者の誘導を各車輛の運転者に伝達した。
アイとともにキャンプ場の奥に行くと、冒険者たちがテントを畳んでいる最中だった。
オリビアが立ち上がったので、店主も立ち上がった。
「ナカヤマさん、これから貴方達と一緒に移動しますが、冒険者の方達にも我々の車に乗って頂きます。幌馬車の荷物が落ちないか、最後尾のオフィーリアとコジロウが馬を引きながら見ますので、どうぞ安心して下さい。それと道案内をお願いしますね。」
ナカヤマ「分かりました。何から何までありがとうございます。それにしても、馬が要らない車なんて、私は初めて見ましたよ。」
「それと5kmほど先で盗賊のアジトを見つけまして、そこに行ったメンバーと荷物も拾います。」
ナカヤマ「そ、そうですか、まだ他にもいたんですね。」
「では、みなさん、誘導しますので、車に乗り込んで下さい。」
冒険者に、盗賊達の遺品は持って行かないの?と聞いたのだが、お金以外は価値がなく、衣服も臭くて使い物にならないと言っていた。
すぐにアジトの監視をしていたオーロラとコジロウと合流し、中にあった品物を確認する。
「ご苦労様。結局誰も戻って来なかったのか?」
オーロラ「はい。残存兵はいないと判断します。」
「ナカヤマさん、ヤスケさん、この荷物どうしますか?私達は要りませんが…」
ナカヤマ「いや、ですが金貨や銀貨もあるようですし…」
「冒険者の遺族にでも差し上げたらどうです?」
ヤスケ「分かりました。ではお言葉に甘えて、そうさせて頂きます。」
コジロウとオーロラが2台の移動販売車の運転席につくと、アイとムサシはそれぞれの戦闘車に戻る。
アイが私の隣に戻り、ムサシは貨物室のハッチから上半身を乗り出して、再度発進する。
元々30km程度しか速度は出せない。
約1時間で谷間を抜け出し、平野部に出た。
東の空は明るい。
キンキ地方は晴れているのだろう。
次第に道も良くなってきた。
12時ころには約100km、3分の1は走破しただろう。
馬も人を乗せていなければ、問題なく付いてこられるようだ。
昼休憩は街道横の草原に車を停めて休憩にした。
先頭車両に乗ったナカヤマさんとサスケさんは、すっかりオリビアと仲良しになっていた。
昼食は冒険者4人、商人とオリビアの3人、私とアイとムサシの3人がそれぞれに昼食を取った。
コジロウとハンゾウは馬の世話をしたり、周囲の偵察に余念がない。
食後、オーロラとオフィーリアは冒険者に酔い止めの飲み薬を入れて雑談をしているし、オリビアも同様に酔い止めの飲み薬を飲ませていた。
周囲に人の気配が無いのは、荊州や豫州から逃げて来た人たちが帝国領に逃げ込む大移動の時に、小動物や食べられる植物など、根こそぎ狩りつくしたせいだと商人は言っていた。
この南部でも囲いの無い土地で栽培をする者はいないそうだ。
1時になり、薬が効き始めた頃から彼らは眠り始めた。
陽が傾き夕暮れ時になって、320kmを走った頃、防壁のある都市ヒョウゴに到着した。
入門手続きの列の並び、ナカヤマさんを起こす。
オリビア「ナカヤマさん、起きてください。ナカヤマさん。」
ナカヤマ「うーん……おお!もうヒョウゴに着いたのか。」
オリビア「はい。そのようです。手続きをお願いできますか?」
ナカヤマ「分かった。おい!ヤスケ!起きろ!」
ヤスケ「あっ!おはようございます。」
ナカヤマ「おはようじゃない。入門手続きだ!それと護衛達も車から出てくるように言え!」
ヤスケ「はい!」
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