第125話 定番!商人救出
王国歴 264年5月第2週後半
ラクヨウから南下を始めて約60km走り右手に山が見えたあたりから、雨模様になった。
初めて経験する本格的な雨だ。
100km地点の平野部にナンヨウという村があったが通過する。
更に80kmほど南下するとジョウヨウは有ったのだが、防壁内を流れる漢江という川が増水しているし、周辺の道が泥状態で荷馬車が立ち往生しているのが見える。
我々の車でも先に進むのは危険だと判断。
一旦、ナンヨウに戻り、進路を東方向に変更してケンギョウ(上海近郊)を目指す。
まーこの名前の都市は私の世界のものだから、実際にあるかどうかは不明だが…。
初夏のこの季節は、朝7時に出発して現在午後2時。曇り空だが、長江の氾濫の影響もなく、多少道路がぬかるんでいても我々には影響が無い。
順調と言っても時速は平均で30kmくらいだろう。
ケンギョウまでは500kmはあると思われる。
道路が東方向からやや南向きになった所で、南北の山に挟まれた谷に差し掛かった。
夏場の夜6時はまだ明るいのだが、谷に入ると既に暗いし、抜けるには3~40kmは有るだろう。
だが、私達には偽装網を掛けなくて良いというメリットしかない。
忍者組からオーロラ、探偵組からオフィーリアが販売車から降りて、道の両脇を偵察しながら先行する。
おおよそ30分ほど進んだ所で、戦闘車の後部ハッチからオリビアが38式自動狙撃銃を持って出て来て、スコープを覗いている。
オーロラ「(赤外線視覚共有セット。聴覚共有セット。)」
泥だらけの男「だれか!だれか助けてくれ!」
「(ムサシ出撃!)」
ムサシ「(了解)」
オーロラの赤外線視覚で、森の中に馬車を数台発見した。
馬車を停めた広場には、その場を守る数人の冒険者の男達を視認できた。
キャンプをしているところを襲われたのだろう。
周辺には矢で倒された者達も数人いる。
強盗「おい、あきらめて武器を捨てろ!殺しはしない。」
泥だらけの男「強盗の言う事を信じる馬鹿はここにはいない!」
強盗「お前達を殺しても仕方ねぇんだ。そこの商人を素直に引き渡せば、お前たちは見逃してやる…」
「(オーロラ、オフィーリア、ムサシ、データリンクで強盗団を制圧してみろ。)」
ムサシ「いま助けに行くぞ!待っていろ!」
(派手に大声を出して強盗団の注意を引きつけているようだ)
オーロラ「(木の上に登っている時間的余裕はない。私は右翼を担当する)」
オフィーリア「(では私は左翼を担当しますわ)」
「(よし!GO!)」
『カチッ』『キュイン』
麻痺毒矢のロケットダーツが打ち上げ花火のような音を出して強盗を襲う。
彼らが使っているのは新型ダーツ。
この音を出すタイプは下半身位置に向かう事で剣を下段に構えさせ、目標近くで上昇するため、打ち払う事が困難になるタイプだ。
別に無音・直進タイプもある。
『カチッ』『シューー』…
次々とダーツの餌食となり、倒れる強盗達。
中央突破を図るのはムサシだ。
久々に2刀流の剣で、リミットを解除した3倍速モードの走りと剣技で次々と強盗の首を飛ばしていく。
キャンプのあかりを背に受けて、まるで後光が指しているようだった。
『ザザザン』『ヒュン、ヒュンヒュン』
あっと言う間に制圧した相手の数は、何と22人の強盗集団だった。
そこにいた者たちは懐中電灯のフラッシュライトの閃光に目をやられ、オーロラ、オフィーリアの姿を確認できておらず、ムサシの活躍さえも見えていなかったのだった。
「(オーロラ、オフィーリアは周囲の偵察。ムサシは強盗団のメンバーを1か所に集めてくれ。)」
装甲戦闘車を運転するオリビア、私、ハンゾウ、コジロウがそれぞれの車を、開けた場所に停車する。
オリビアは意識共有をセットしてから、全身泥だらけの恰幅の良い男性の所に行き、おしぼりで男の顔の泥を落としてから、男の左側から寄り添うように男の腕を、自分の両腕で支えている。
(それは男に自分の胸を意識させるようにする仕草…)
オリビア「大丈夫ですか?広場まで私がお連れしますから、どうぞご安心を…」
(どうやら、男の反応を観察しているようだ…。)
(こんな場面だからこそ、凋落の効果は高いだろうけど、そこまでするか…悪女!)
ハンゾウがアンテナを設置し、コジロウはムサシと同じように、強盗団を並べながら、刺さったダーツを抜いている。
男「お嬢さん、ありがとう…助かったよ。」
オリビア「どういたしまして…うふふ…わたし、これくらいの事しかできませんから…」
生き残ったのは、広場まで戻った男と護衛の冒険者5人。
護衛が7人ほど倒されてしまったようだ。
冒険者タグを外し、埋葬する事になった。
ムサシが怪力を発揮して穴を掘り、コジロウとハンゾウが穴に埋めていく。
一段落した所で、私の左にアイ、右にオリビアが立っている。
アイ「お茶の用意を致します、ご主人様。」
すぐにオーロラが丸テーブルを、オフィーリアが簡易の折り畳み椅子を2つ持って来て、直径1mの小さな木製テーブルの脚を広げて地面に安定させる。
続いて、折り畳み椅子を対面に置き、2人は販売車に戻った。
「どうぞ腰掛けながら話しましょう。」
少し絶句した状態から再起動した男は年配であり、責任者のようであった。
男「ありがとうございます。私はヒョウゴの商人、ナカヤマと申します。この度は危ない所をお助けくださいまして、ありがとうございました。」
「私はカールという同じく商人です。あの、すみませんが『ヒョウゴ』というのはどの辺りになるのでしょうか。このあたりまで来るのは初めてなのです。」
ナカヤマ「そうでしょうなー。何せキンキという地域をご存知の方はほとんどいませんからね。」
「共和国南部に属しているのですか?」
ナカヤマ「よく共和国ですかと聞かれますが、その国がどこにあるのかも私は知りません。しかし、このキンキという土地に点在致します町は、ほとんどが原初の神が作ったものと言い伝えられています。」
ナカヤマ「町の名も、防壁も、建物でさえも全て初めから有ったものです。我々の御先祖様がご神託によってその場所を教えられ導かれてからも、共和国を名乗る人には会ったことはないのです。」
ナカヤマ「もし、よろしければ、我々と一緒にヒョウゴへ来ませんか?お礼もしたいですし、まだまだこの先、何日も掛かる長い道のりを、ご一緒させて頂ければありがたいのですが…」
「では、ご一緒させて頂く事にしましょう。ところで、馬車や馬は大丈夫でしょうか。」
ナカヤマ「ヤスケ!馬車は大丈夫か?」
馬の手綱を持って隠れていた男は、ヤスケという人物らしい。
ヤスケ「馬車は多少壊れている所もありますが、人数が減ったので、馬も含めて大丈夫でしょう。」
この後も少し話したのだが、この商人は気配探知の加護持ち。
だから一足早くに抜け出したのだが、泥水の水溜まりに突っ込んだらしい。
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