第123話 懐中電灯
王国歴 264年5月
私達はフエキの屋敷に戻っていた。
宰相と面談をして、ポルトランドのジョゼフ家を帝国の村へ送り届け、東部区画の管理者をフランキー夫妻に任命した事を報告した。
北部のビンランド帝国が支配地域を取られ続けている事と、セントレア帝国の南部が特にひどい野菜不足になっている事を報告し、偵察で得たセントレア軍の拠点地図を提出した。
宰相「それにしても早く帰ってきたね。」
「セントレアが食糧補給に困っている状況では、北部のビンランド帝国へのこれ以上の侵攻は当分無いでしょう。結局、物資が無ければ何もできないという事ですね。」
宰相「豊かに見える帝国だったのだが、蓋を開けてみれば普通の国だったとはな。」
「全くです。それと新兵器を開発しましたので、イザベラとシンシア、エリオットを呼んでくれませんか?」
宰相「わかった。おい!」
執務室に呼ばれた秘書のインターンは、宰相の指示をメモに書いてすぐに部屋を出ていった。
出されたお茶に口を付けると、すぐに『宰相の影』イザベラが現れた。
「早いなー。悪いけどシンシアとエリオットが来るまで、昼食でも食べようかな。」
久しぶりに行政棟の食堂へ行き、サンドイッチを買って食べた。
「宰相閣下、訓練場の使用許可と人払いをお願いします。」
宰相「秘密兵器と聞いて、既に指示は出してある。行こうか。」
訓練場の端にある円形の的の横に、藁人形を立てているとシンシアとエリオットがやってきた。
藁人形から10m程度戻ったところへ、皆に来てもらう。
「まず、これは懐中電灯といいます。このスイッチの後方に『OFF』、次が『ON』、前方に『前照灯』と3つ書かれています。OFFは安全な位置です。これを前へ押し出すとONの位置です。」
「ONの位置から前に押し出すと『前照灯』つまりライトが点灯します。ON位置に戻すとライトは消えます。」
「ここからは武器のモードを説明します。このスイッチを中に押し込むと、フラッシュライトが点灯します。」
『カチッ』
強烈な明かりでみんなが目を閉じるが、そのあと、赤色レーザーが的を照らす。
「的を見て下さい。まぶしい光のあと、この赤い光が出ます。この状態から更にもう一度スイッチを押し込むと、矢が発射されます。」
『カチッ』『パシッ』
「閃光モードは、『ON』『前照灯』のどちらの位置でも可能です。この武器は宰相閣下とシンシアの護身用に。」
そう言って、2人に懐中電灯を渡して、練習をしてもらった。
次にイザベラとエリオットにサプレッサーが付いた状態の拳銃を渡す。
「これは拳銃という武器です。ここが安全装置。この武器の特徴は小銃よりも小さくて取扱いが容易な事。例えばこの消音器を外せば、こんなに小さくなる。でも耳栓が必要でとっさには使いにくい。」
「それと、本体は小さいですが反動が大きくて命中率は悪いんです。でも光の照準を使えば、着弾点を示してくれるので命中率はぐっと上がります。」
私が的を射抜いて見せる。
『パン』
乾いた音がしたが、我慢できない音の大きさではない。
「小銃よりも使いやすいですが威力は落ちます。射程は50mかな。これでシンシアを、宰相を守ってほしい。」
そう言って、10mごとに弾倉一つ分を使って射撃訓練を行い、50m地点まで戻って来た。
ここで弾丸を2種類テーブルに置いた。
1つは先端が丸いフルメタルジャケットだが、もう1つは炸裂弾と呼ばれる先端が破裂して貫通力の低い弾丸だ。
「今度は空いた弾倉に弾を込めていくんだけど、この2種類を交互に詰めてほしい。相手が中型獣なら炸裂弾が有効だし、人間なら通常弾で充分だと思うけど、緊急時には弾倉を切り替える時間がないからね。」
俗にメキシカンローディングと呼ばれる混在方式。
私の弾倉も同じように弾を込めていく。
「エリオット、イザベラ。弾丸の補給は私に注文してくれればいい。2人の分は無償で提供する。」
宰相は感謝の意を仕草で表したが、王太子や国王が使うのは危険すぎるため、懐中電灯なら正式ルートで供給する旨、伝えておいた。
次回は共和国側から侵入して、大量の食糧を持って帝国側に行く事が出来れば、過去の貿易実績もあり、自然に受け入れられるのだろう。
だが、これを実現させるためには、共和国南部地域に農園を作らなければならないし、倉庫や輸送手段も検討が必要だ。
とりあえず、装甲戦闘車をもう一台作っておこう。
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