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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第12話 雇用条件


「ところで、ここに2振りの剣がある。どちらもダンジョンの宝として得た物だ。少し、見てもらえぬか。」



国王の指示により、騎士が持って来た物は日本刀であった。


手に取って鞘から抜き、刀身部分を触り分析する。

この刀は皮鉄と心鉄を合わせて鍛えた新刀と呼ばれる刀だ。

皮鉄は硬く折れやすいため、心鉄として柔らかい鉄を芯として入れている。



だが、この皮鉄にはひびが入っている。

しかし、ただ触れただけで分かるというのも問題だろう。

打撃音を聞いてみるか…。


腰の便利袋から鉄の棒を取り出し、先端を小さな球状に錬金する。


「ほほう。魔法で鉄を自在に加工できるのか?」


「はい。錬金の加護でございます。」


刀の鍔付近から順に、先端側に向けてすこしづつ移動しながら小さな打撃音を出していく。

そしてヒビの付近で少し音が変化する事を確認した。


「この刀にはひびが入っているようです」


と告げ、ヒビの箇所の亀裂を錬金で融合させて一応の修理をして、再度、打撃検査をして修理が終わった事を示しておく。



そしてもう一振りの刀を鞘から抜き、同じく刀身部分を触り分析する。


この刀は古刀と呼ばれる部類の、不純物の無い異なる炭素量の鋼材を、不均質に分布する『丸鍛え』という工法で作られた刀だ。

低温で叩かれるため、接着成分が飛ばず一体化している。


同じく打撃検査をして、異常がない事を示し、古刀を鞘に戻した。


「すばらしい芸術品です」



「なぜ分かるのだ?」


「そのような加護を授かっております」



国王と宰相が向き合い、頷いたあと、宰相は


「君のような優秀な人材は、是非、国の重要な地位を持って待遇したいと考えている。王国騎士団に武具を扱う部署を新設するとしたら、どうだろう、手伝ってもらえるだろうか?」



「条件があります」



「なんと無礼な!」


いきなり国王の後ろに居た老年の騎士から怒りに満ちた罵声が飛んできた。


私は怯えたように父の背中にしがみ付いて、それ以降、一切言葉を発する事はしなかった。

あとで宰相が直々に話をしにくるだろう。



国王が、宰相が、父が、祖父が、誰が何を言っても父の背中に顔を付けたまま、小刻みに震える動作を続けたため、謁見は終了となった。



とりあえず、控室に戻る時にも父の背中に張り付いたまま歩いて戻り、『はぁー 9歳の子供に無礼だ!なんて…怖がるのに決まってるだろうに……ねー父さん。』


呆れと安心が錯綜している表情の父と祖父に『大丈夫ですから、ご安心を』と言っておく。


今回の人生では、決して妥協しないと決めている。

私が嫌だと思う『上からの圧力』『脅迫』生前の1回目の人生で十分だ。

だから、なにが有っても再発しないように全力で排除する。



しばらくして、思った通り宰相がやってきた。

ドアをノックし、『入るよ』と言いながら中を覗き込む宰相。


「申し訳ない事をした。あの者には厳重に注意しておいた。」


父と祖父が遠慮しながら頭をさげるなか


「いいえ、宰相閣下には私達虫けらの平民に対しても対等にお話し頂き、その誠意に感謝しております。」


と皮肉交じりに言葉を発すると、『君は…』と呟く声がした。


「で、条件ですが、よろしいでしょうか?」


「あー、聞こう」


「実は、僕は魔道具店を経営するサマンサという老婆の所にお世話になっておりまして、そこのお嫁さんで王国魔術師であるナンシーさんが行方不明になっている事について、きちんとサマンサさんに説明をしてほしいのです。」


「な、なに? おい!だれか!魔術師団のロバートを呼んで来い!」


「私とサマンサさんは、ナンシーさんから連絡がきた時のために、ナンシーさんの実家である魔道具店から離れられないのです。そして、そんな母親のナンシーさんを探して、孫のエリカまで店から飛び出して行ってしまって…」


「そうか…わかった。その件はなんとかしよう。」


そう言って、宰相は部屋を出ていき、すぐに駆け付けたと思われる魔術師団の人と廊下で、話をしていた。

戻った宰相は話の続きを催促した。


「それと、今後様々な発明品を作ると思いますが、問題は材料なんです。とにかく、鉄以外の鉱石類、いや、変わった色の土ごと、頂きたいのです。必要になった場合には、取り寄せしたいと考えています。」


「その件も了解した」


そのあとは宰相が懸念していた技術的問題について話をした。


1つは折り返し鍛錬を数多くおこなう事で鋼鉄剣が作られるなら、その事自体を隠さなければならないのでは?という疑問であった。


しかし、実際には叩いた表面の炭素と不純物がスケールと共に飛散し除去されるのだが、単純に折り返して鍛錬しても鉄が均一に混ざる訳ではなく、層になるだけなのだ。


結局、低炭素層と高炭素層が積層構造にはなるのだが、鉄を均一の素材に練る私の錬金術無しだと、層の継ぎ目で剥離してしまい、刀にすらならない。



釉薬のような物を開発できるまでは、鍛接することはできない。

釉薬を使っても積層構造では芸術性はあっても実用性はない。


そこで考えられたのが、皮・心鉄鍛えなのだが、心鉄構造は研ぎ直しで皮鉄(鋼鉄)が減り、先ほどの刀のようにひびが入り、実用上使えない刀になってしまう。


つまり、均質に混ぜる鍛錬技術+釉薬、又は、均質にできる加護、又は、適性炭素量の均質な鋼材を作る工業力が無ければ、同じ質の鋼鉄剣は作れないのだ。



第2の懸念は、この剣が他国に流失しないようにする防止策だ。

この点は剣の柄の部分に銘柄と番号が打ってあるので、この情報と渡した人物を紐づけして管理するしかないと話した。


そして、剣は結局『消耗品』なのだと説明した。



私のような人物がいるから簡単に量産できるだけで、近代のように科学的に均質の鋼材が作れる時代が来なければ、簡単ではないだろう。



宰相閣下には、とにかく魔道具店の問題が解決されるまでは、王都へ移動するわけにはいかないと明言しておいた。


「私からも一つ、お聞きしたい事があるのですが…」


「何でも聞いてくれてよい。」


「なぜ、あの方は私を威圧し、恐れさせようとしたのでしょうか?王族として得する事など無いと思うのですが…」


「うむ。指摘はその通りだが…」


そう言って、私の顔をじっと見ている宰相に


「あの方は私を歓迎していないという事は確かなようですね。王都に来る際には身の安全を図る必要がありそうですが…」


「その件も了解した。何か考えておこう。」



お読み頂き、ありがとうございます。

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