第117話 東方方面軍の経済施策
王国歴 263年7月第1週
宰相から、東方方面軍に『東方方面軍の経済施策について』という説明文と、貿易用商品倉庫、装甲輸送車基地、及び、自転車訓練施設の設置命令書が届いた。
このため、東方方面軍のアンドレア隊長が電波塔の通信室を使い、カール少将あてに連絡をして来た。
同じ軍としての通信は、隊長、及び、副隊長の裁量で使用が認められている。
もちろん、そうでなければ緊急事態に対応できないのだが。
帝国との貿易対象商品リストと価格表は、既に宰相と国王の承諾を得ているが、軍備品以外については七曜商事に任されている。
とりあえず、取引できる商品が決まり、これらの商品を積んで、我々は東の森ハリコフに装甲輸送車×2台、装甲車(区別のため装甲戦闘車と呼ぶ)で来ている。
貿易用商品倉庫は、内部が3階建てになっていて、人力での作業を補助するため、バギー車で上下できるように幅広通路で設計してある。
スロープは建物の中央にあり、上りも下りも右回りの一方通行である。
今は、マチルダ副隊長の指揮により以下の物品の収納作業が進められている。
低級、中級、上級の各ポーション。
糧食は堅パン、カップ麺。包帯、塗り薬、防具は胸当て、籠手、ブーツ各サイズ。
武器は鍛鉄剣、クロスボウ。農具は、カセット式小型耕運機、鍬、鎌、スコップ、肥料。
一般品は小麦粉、塩、無地の戦闘服、寝袋、枕など。
これらを運ぶための装甲輸送車は今回、私とムサシが乗って来た。
アイは装甲戦闘車だ。
実際にこの装甲輸送車を整備するため、南方方面軍のバギー車を整備するチームから2名が転属して来ている。
今度は本格的な輸送車を勉強できるので、とてもうれしそうだ。
代わりの要員が南方方面軍に転属になり、修行をする事になる。
また、装甲輸送車は5台を配置して、1台は分解組立実習の練習用機材になる。
そして今回、この倉庫の1階が自転車組立工場になるのだ。
受注は既に400台を越えている。
それもそのはずで、宰相の護衛に渡した2台の自転車が町中を走り回り、偵察任務にはもってこいだと、軍で評判になったからだ。
但し、今は軍に対しての先行販売期間であり、一般向けはまだ先になるだろう。
毎年、王国軍は確実に人員を増強してきた。(以下参照)
257年 総勢200名、参謀部6、北部は78、南68、東48。
258年 総勢+50名、参謀部+8、北部+42
259年 総勢+50名、参謀部+8、南部+42
260年 総勢+50名、参謀部+30、東部+10、鉱山+10
261年 総勢+50名、参謀部+8、東部+42
262年 総勢+62名、海軍+120
だが、今年、リビウで海軍省を新しく設立したため、北部と南部から各20名、東部からは8名を引き抜き、東方方面軍は100名に減っていた。
そのため王立学園の卒業生の配分をめぐって、いろいろと議論がされている。
行政官と商務官は各10名が配属され、宰相の負担も軽減されるだろう。
なにしろ前代未聞の速さで国家の経済規模が大きくなり、住民登録制度により住民が把握され、税収も増えているが、電子貨幣と銀行の導入により、お金のやり取りは比較にならないほど簡単になったのだ。
そして東部方面軍のうち、20名で自転車の製造をスタートした。
私が中央で組み立てのポイントを説明しながら組み立てていく。
一つ部品を組んで、説明し、また一つ組んで説明をする繰り返しだ。
その説明作業で作業を経験していないAIは、全員が組めるようになっていた。
最初の週は、1日20台弱だったものが、2週目には瞬間的に40台/日になったのだが、チェーンなどの部品生産が追いつかない。
鉄道が開通しないと部品納入も完成品出荷もできない。
という事で参謀部には、『早く鉄道の開通を』というプレッシャーが掛かったようだ。
タイヤは空気ではなく、例の魔物ジェルなのでパンクの心配はない。
ヘルメットは前かごに入った状態で納品されるし、夜間は使用禁止なので、あとは盗難防止システムだろうか。
つまり、購入できる人は、住民登録が済んでいる人に限られる。
自転車が普及した頃には、すべての方面軍でメンテナンスができる体制にはなるだろう。
合わせて道路の路肩が弱いので、いずれ、道路整備も必要になるのだろうか。
そう考えると、自転車の販売相手は、軍関係者に限定した方が良いかも知れない。
装甲輸送車の製造は、七曜商事の独占事業だが、輸送事業には当然、護衛が当たり前になるため、装甲戦闘車も供給してほしいという要望が軍から出た。
宰相には交通事故防止の観点から、これまで供給しなかったという事を説明したうえで、各方面軍に装甲戦闘車(後部にハッチ2つと銃座2つのあるモデル)1輌と装甲輸送車2輌を供給する事にした。
これからエンジン車の稼働台数が増えると、鉄道以外にエンジン車専用道路の整備が必要になるだろうという見通しも、宰相には言っておいた。
危険な車輛と、子供を含む人間とは、同じ道を使うべきではない、というのが私の見解だ。
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