第115話 里の改革
王国歴 263年6月第2週
リチャード家当主とチャールズ家当主の2人は、極めて図太いタイプの人間であった。
開拓団を率いるリーダーシップもあり、農家やわがままな子供もいる団体を納得させる話術も有している。
いざとなれば置き去りにする冷酷さも。
だが、連日の尋問が3日目に入った時、ゆっくり眠りたいという欲求が頭の中を支配していた。
電気ムチの刺激は耐えられない苦痛ではないが、ただ、否応なく体が再起動させられ、神経を目覚めさせてしまうのだった。
だが、5日目からはムサシとオリビアが戻って来て、やり方が一変する。
質問は同じなのだが、一問が終わると足の指がハンマーで1本ずつ、叩き潰されるのだった。
耐えられない痛み、それが今回のテーマだ。
5本潰し隣の部屋に移動する繰り返し。
夕方になると、カールがやって来て、ヒールで足の指を正常に戻してから再スタートだった。
そして一晩、そのまま放置される。
次の日の朝、新しく出来た装甲輸送車に2人の捕虜を寝袋に入れて荷台に乗せる。
これからテスト走行だが、行き先は『北の里』。
フエキから北の里ホメリまで200kmと近い。
おおよそ4時間の走行だった。
私は帝国の時と同じで、アイとムサシを連れてきた。
初めて族長と会うのだが、あえて、里の関係者は連れていない。
防壁の無い本当に小さな村だが、家が密集していないのが特徴のようだ。
入口とも言えるT字路に爺さんが3人立っていた。
族長「カール様、お待ちしておりました。」
「出迎え、感謝いたします。」
族長「どうぞ、こちらに。」
村の中に案内され、そのうちの1軒に入ったのだが、集会所のような感じだ。
テーブルの配置は対等な者同士が話し合う、そんな感じだ。
私は1m×2mの机の中央に座り、その後方左右にアイとムサシが立っている。
族長たちは、横方向に3つ繋いで、中央に族長、左右が副長の二人だ。
「(意識共有)」」
アイ、ムサシ「(意識共有、セット。)」
その他の代表者らしき人物たちが後左右の空いた席に座り、私の前にはお茶と木の小皿に入ったサクランボのような果実が置かれた。
「改めて、王国軍技官教育長のカール少将です。うしろの2名は部下のアイ、そしてムサシです。」
族長達が順に名乗っていく。
「(アイ、覚えておいてね。)」
アイ「(了解)」
「先日、グランデ王国の自治領として併合を受け入れたと聞いていますが、代表はどなたですか?」
族長「私だ。」
「貴方達はこの土地の責任者、リーダーとして長年に渡って、一族を率いて来た。違いますか?」
族長「そうだ。」
「それだけの実績もあるし、だからこそ今がある。そうですね?」
族長「良くお分かりです。」
「昔ながらのビンスク村、マッスル村、ここコメリ村の3つの拠点しか無く、産業らしいものは無く、新しい技術も無く、王国や帝国に対する影響力も無く、お金も無い。ここまで明らかな実績なんです。世代交代して頂きましょうか。」
族長「な、なに!」
族長が立ち上がったと同時に、私は木の皿に入ったサクランボを空中へ放り上げた。
『ヒュヒュヒュン』
『ぼとぼとぼと』と落ちてくるサクランボを私は木の皿で受けとる。
私が投げたその瞬間、ムサシが目にも止まらぬ速さでサクランボを二つに切っていた。
弾力のある果実に包まれた種さえ、2つに切れているのだ。
目に見えなかった剣さばき。
そして族長の肩を後ろから優しく叩いて、
アイ「族長さん、とりあえず座りましょうか。」
ここにいる全員、ムサシの剣が、アイの移動が見えなかったはずだ。
「族長、例えば私達が乗って来た乗り物。木の車輪は使わず、ボルスキーの砂漠の魔物を狩って作ったタイヤという車輪を使うのだ。そして鉄。イワノフの鉄鉱石から取れる鉄に2%ほどの炭素を混ぜて作る鋼鉄で出来ている。今ムサシが使った剣も、その鋼鉄で出来ている。」
「そして車のガラス窓。石英というどこにでも有る石から作ったものだ。そして肥料。これによって王国の収穫は最低でも2倍にはなっただろう。私はまだ15歳だが、加護の力もあって、これだけ多くの発明をして、物を作り、民を豊かにしてきたのだ。ほぼ10年でね。」
「だが、あなた方は、私が話している事さえ、理解できないだろう?それが今の3つの村の現状なのだよ。これでもいいのか?」
「私はね、族長。例え3男一族が私の祖父を陥れたのだとしても、同じ一族同士、殺し合いはしないつもりなのだ。寛大だろ?だけどね、向かって来るというなら、邪魔をするというなら、容赦はしないよ。」
族長「ど、どうしろというのだ。」
「はっきり言うが、今見たように明らかな力の差も判断できない者に、里は任せられない。」
他の者「その通りだ。このままだと、どんどんダメになっちまう。」
「そこで私の提案だ。次の代を担うべき者を、我こそはと思う候補者を王立学園に出しなさい。その成績で次の指導者を決めよう。いいね?」
「ビンスクとマッスルの村の代表者はいるか?」
副長2人が手を挙げた。
「君達も同じく、隠居だ。」
「次の課題だ。」
アイとムサシに捕虜2人を持ってくるように伝える。寝袋2つを床に転がし、
「この2人は周辺隊を騙していた、帝国のリチャード家当主とチャールズ家当主だ。こんな貴族でもない詐欺師に引っ掛かり、長年いいように貢がされていたなんて、恥さらしだ。これを決定したのは誰だ。」
族長「…私だ。」
「そもそも貴族の権威とは、爵位では無く、どのような役職に付いているかが重要ではないのか?無役の貴族に付いて行って何になるのだ…。相手の収入、役職、周囲からの評価、財務状況など、調べられる事はいくらでもあっただろうに…。」
「騙された者にも落ち度はあるが、我ら一族を騙した者には相応の罰を与えねばならない。この2人を決して許すな。殺すな。奴隷として一生こき使え。」
周囲を見回して、聞いてみた。
「何か聞きたい事はあるか?」
若者「王立学園の費用はどうするのですか?」
「もちろん私が出す。学園には寮もあるから、宿舎の心配もいらない。」
「聞きたい事があれば、後でエリオットに伝言鳥でも飛ばして聞けばいいだろう。今彼は王国軍の中枢に居る。優秀だからな。」
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