第113話 ビンランド帝国とは
王国歴 263年5月第3週
ムサシとアイの2人が、周辺の偵察へ出ている間、私は砦の中の最も高い木に、避雷針とパラボラアンテナを設置している。
指向性の高い送受信アンテナだ。
これに魔石BOXを接続し、オリビアへの通信を試みる。
ポルトランドのアンテナには偵察機との通信を可能にするために、全方向八木アンテナが設置されていて、こちらのパラボラアンテナの方向さえ正しければ、オリビアは受信可能な筈なのだ。
マイケルさんに、ポルトランドの責任者を聞いたのだが、リチャード家とチャールズ家、そしてジョゼフ家の3つの開拓団が入り、各々勝手に街に住みついたそうだ。
各開拓団は初期100名~200名程度の規模だったそうだが、建物は初めから有ったものだし、2つの開拓団当主が北の国から使節団を受け入れて以降、贅沢な暮らしを始めたため堕落して、現在最も力があるのはジョゼフ家だが、責任者などではないとの事。
つまり、北の国の周辺隊は、すっかり騙されていたという訳だ…。
10時前に再び木に登り、オリビアからの通信をタブレットで確認している。
オリビアの音声通信と受信レベルが表示されて、お互いの信号が最もよく通るように、アンテナの角度調整を完了した。
マイケル「何をされていたんですか?」
「あー、ポルトランドとの通信を調整していたんですよ。」
マイケル「それは、つまり、手紙を送り届ける装置。」
「はい。」
マイケル「馬よりも早く?」
「はい。その場ですぐに。」
食堂の席に座り
「私も商人と言いましたが、実は王国の七曜商事という商会の者なんです。」
マイケル「あ、あの七曜商事…て、鉄道を作ったという、あの会社の方だったんですか!」
「ええ。ご存知だったのですね。」
マイケル「冒険者から聞いて噂は知っていましたが、その会社がどうしてこんな所に?」
「はい。国として何度が手紙を送ったのですが、返事が来なくて、結局、行ってみようという事で、我々が見に来たという訳です。」
マイケル「はは。まさか、こんな国だとは思わなかったでしょう?」
「はい。正直、何の情報も無くて困っていたんです。」
「私達は商人であり冒険者。だから帝国の内紛に加担することはできません。どちらに加担しても将来に禍根を残す事になります。帝国の問題は帝国の人の手で解決すべきです。ですが、何か手助けができるなら、してみたいですね。」
「例えば、武器や防具、薬など。回復魔法の使い手だって、派遣しようと思えばできます。でも、この村単独では支払いにも困るでしょうし、我々も商人。ただで何かできる訳ではありません。」
「そこで、ハーミス、ドルトン、グラント、パウダー、ベーカー、ウェザーの砦がある安全な村6つと合同で、我々七曜商事と取引するのならできるでしょう?例えば、医薬品や武器、防具の委託販売。」
マイケル「委託販売?」
「そうです。我々が商品を持って来て、皆さんに預ける。必要な物を、必要な時に、必要な量を買う。我々が次に来た時に、代金やそれに見合う物を受け取る。」
「欲しい品物があれば、装置を使って我々に連絡するのです。」
マイケル「それはありがたい。ぜひ、そうさせて下さい。」
「では、他の村を案内して頂けますか?」
マイケル「分かりました。早速ですが、明日からでもいいですか?」
「はい。」
宿舎に戻って通信用パーツを錬金術で作ってゆく。
これから5か所と送受信ができるように、アンテナ、魔石BOXと避雷針を作る。
データはポルトランドまでは自動送信で、各所には分岐を落として行けば良いか……。
アイとムサシが戻って来た。
明日からドルトン30km、グラント50km、パウダー30km、ベーカー30km、ウェザー40kmと5日間のハードスケジュールでアンテナを付けて行く事を説明した。
「それと、ポルトランドまで通信がつながっている。ここまでの出来事を全員にアップロードしておいてくれ。オフィーリア医師にはアリス院長に口頭で報告し、エリオットに伝言鳥での一報をお願いしたい。」
アイ「了解。」
「さて、食堂へ行って夕食を頂きながら、今日の偵察について聞こう。」
アイ「はい。」
ムサシ「はい。」
砦を出た2人は左右に分かれ、ワイパーのように扇状に偵察を行ったらしい。
比較的近い距離ならアンテナ無しでも2人の間で通信はできるので、1km程度までは厳重にワイパー方式で、それ以遠は2人が500m離れた場所を並行に偵察したそうだ。
特に怪しい者はいなかったので、前回襲撃を受けた川の合流点に戻り、襲撃者の足跡を追跡したところ、フッド山という今でも雪が残る山頂付近に山小屋を発見し、音響閃光弾とムサシの突撃で中に居た者5名を殲滅したそうだ。
(5名の遺体は火口に廃棄)
報告が終わり、はぎ取った装備品をテーブルに積み上げて、食堂のおばさんに『マイケルさんにお土産だそうです』と言っておいた。
相当な距離を走ったのだろう。
『二人ともお疲れ様。』とねぎらいの言葉を掛け、宿舎に戻る。
なぜかアイとムサシがじゃんけんをしている。
「どこで覚えたんだ?」
アイ「ここの子供が教えてくれたんです。」
子供に怖がられていないなら、何よりだ。
いつものようにムサシがドアの外で警備をして、アイは、私のとなりで温めてくれる。
王国歴 263年5月第4週
オンタリオ市までの6つの村の責任者に装置の説明をした。
各責任者が使うのはペンタブレットだ。6つの村の装置は並列接続してあるだけなので、私達からすれば一つの扱いになる。
各村が注文を書くと、上から村の名前と書いた内容が表示される。
そして最後に、『良ければ購入手続きへお進み下さい』と表示され、今回は、私が購入を決定せずにキャンセルを押して、履歴に『キャンセルされました。』と表示された。
つまり、購入を希望した内容が残るし、キャンセルしても履歴が残る。
その一連の操作をお試ししてもらったのだ。
もちろん文字だけ、と言ってあるが、ポルトランドには音声が聞こえている、意地悪仕様である。
私達がタブレット装置でワイワイ言っている間に、ムサシはオンタリオ市に偵察に行っている。
やはり、防壁が無い仕様のポルトランドと同じ街だった。
私達がマイケルさんを護衛しながらハーミスに戻る3日間、オフィーリア医師経由でエリオットから、ポルトランドに滞在していた周辺隊が当主に反対され帰郷が出来ていない旨の連絡を受けた。
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