第112話 帝国の内紛
「自分達が作った砦じゃないって、どういう事ですか?」
マイケル「そう、その話だったね…。この国はいま、戦争前だから長くなるけど話をするよ。」
商人さんの話の内容は、自分達のルーツは、この大陸の東側に住んでいた民族だった。
他に民族がいるのかどうかも、知らなかったそうだ。
豊富な水資源と、広大な土地があって、ほとんどの人が農民だったのだけど、少し離れた森林地区にダンジョンがある事を、ウサギや猪を狩っていた狩人が偶然発見した。
そして、その中にウサギの巣があるのではないかと考えた狩人が、ダンジョンに入り、いわゆる魔道具を発見した。
商人「そこから、農民の一部の力自慢の者が狩人になり、ダンジョンで武器や魔道具、魔法書などを発見し、英雄となって独立したのが、英雄13村の起源なんだよ。」
「英雄13村?ですか…」
マイケル「ああー、それも知らなかったんだったな。」
中年男達「なんと…伝わってなかったのか…」
マイケル「まあいい。それから徐々に発展したのが、初代アメリア帝国だ。」
アメリア帝国は農業国だったのだが、英雄の子孫などが『あの夢をもう一度』と、農民を含めた開拓団を結成して、大陸中部へ進出し始めた。
どこまで行っても森林地帯。
獣の数が多くて戦闘集団が率いていたグループは開拓に成功し、戦いに適した者達の比率が多くなり、大陸中部では『力こそ正義』の何でもありの風潮が強い。
だが北部では大きな湖の発見があり、戦闘力よりも適応力の高い農業や漁業の開拓団が成功した。
そこに現れたのがフリアノン女神だった。
彼女の癒しの魔法で病気の者達の傷がたちどころに治った。
まさに奇跡だった。
それから教会を作って、彼女に感謝の気持ちを捧げる事が彼らの信仰となったそうだ。
その後、人の移動が一段落した頃、女神を有する中北部のグループは『ビンランド帝国』と名乗り、戦闘集団の中南部のグループは『セントレア帝国』と名乗るようになった。
そして近年、更に西に進出した中北部のビンランド帝国民が彼らなのだが、ここには無人の砦や無人の建物群があった。
村や市の名前も既に書かれていたのだが、誰もいない不思議な村や町。
アメリア帝国から派生した中北部のビンランド帝国と中南部のセントレア帝国。
その両国を西側に誘導するように作られた無人の町や村。
それは北部も南部も同じ状況だったが違う点がひとつ。
更に南から『キューブ帝国』がやって来て、セントレア帝国と領土争いになっていった事だ。
それから約10年。
セントレア帝国はキューブ帝国を撤退させる事に成功するのだが、その理由は、フリアノン女神を信仰する教会の建設であった。
病気や怪我が治せる教会があるからこそ、兵士は思い切った戦闘ができる。
だが、いまやその教会が機能していないのだ。
なぜ女神の加護を失ったのか、神官さえも分からない。
ヒールのアイテム効果が徐々に薄れ、ついには発動さえ出来なくなった。
だが、それは教会の魔術に関しての事で、魔術書から得られるヒールは今まで通り発動する。
つまり、神官のヒールは失われたが、冒険者のヒールは生きている。
それが帝国民の常識となっていて、冒険者は今まで以上に、大切にされている、との事だ。
マイケル「ま、これが帝国の歴史ってところだ。」
「今まで王国では、ビンランド帝国の人に、アメリア帝国との交易について、手紙を送っていたんですけど、どう思っていたんですか?」
マイケル「アメリア人と言われても間違いじゃないし、逆に説明がややこしい。」
「そうですね。」
マイケル「だから放置するしか無かったんじゃないかな。私達も『帝国』という言葉でごまかす事は多いよ。」
「なるほど…。もう一つ、戦争が始まる…とか聞きましたけど、本当ですか?」
マイケル「私達もそれを心配しているのさ。教会が機能していない事で、回復手段がなくなった拠点もある。そもそも、南部の森林地帯では薬草が取れない。ポーションが作れないんだ。一方、北部は湖の周辺で薬草は結構取れる。だからセントレアがビンランド側に侵攻してくるという噂が流れているのさ。」
ムサシ「もしかすると、途中に出合った盗賊連中は南部の連中かも知れないですね。」
マイケル「君達、ここに来る途中で襲われたのか?」
「はい。ムサシ、装備品を出して。」
ムサシが盗賊からはぎ取った装備品が、中年男達が座る隣のテーブルに並べられる。
中年男達「うおー。こりゃ、1、2,3,4,5人分はあるぞ。」
「僕たち、要らないので置いていきます。」
このあと、注文もしていないのに、スープと肉料理が3人の前に並べられた。
マイケル「これはお礼だ。私達も戦闘の覚悟はしていたが、装備が足りないんだ。」
マイケル「それと、出来ればこの砦の周囲の偵察を頼めないだろうか?」
「南部の連中が付近に来ていないかどうかですね?」
マイケル「そうだ。」
「分かりました。皆さんは状況によっては、ここから出ていくのですか?」
マイケル「いや、私達に戻る場所はもうない。開拓団として出て来て、こうして砦を手に入れたのは幸運だった。ここに来た当時は70人ほどだったが、私達はその2代目として、今では200人を超えているし、砦の防壁は徐々にだけど広げているからね。」
マイケル「南東のオンタリオ市までの各村とも人員の交流も盛んになってきたところなんだ。今更この生活を手放す訳にはいかない。」
「村はどれくらいあるのですか?」
マイケル「ドルトン、グラント、パウダー、ベーカー、ウェザー。この5つには来た時から防壁があった。ここと同じだ。」
「では明日、周囲の確認と各村を当たってみます。」
マイケル「それじゃ、君達の宿舎へ案内しよう。」
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