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家電メーカーの技術担当が異世界で  作者: 神の恵み
第1章 カルバン王国
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第111話 ハーミス村


翌朝、早くに3頭の馬に分乗して出発した私達は、このポルトランド市の冒険者ギルドを訪問した。


ムサシは22歳という設定でリーダー。

15歳の私と17歳のアイというパーティーだ。


ポルトランドは帝国では最西端の市だが、広さが大きく、私の推測では人口3万は下らないだろう。

それなのにギルド内は閑散としている。

いきなりだが、掲示板を見に行く。


市が出している依頼には雑用が全くなくて、全て食肉の確保ばかりだ。

そもそも帝国の西側は森林が豊かで、中型獣も多いから肉は豊富な筈なのだ…

やはり戦争の準備なのか。


逆にポーションの作成や納品は常時受付の場所に貼りだしていて、切迫感がない。


冒険者ギルドを出て、川沿いを東へ70km。

2つの川が合流する地点が今夜のキャンプ予定地だ。

夕食が必要なのは私だけ。


固いパンとスープを用意して、狩った獣の肉をアイがさばいてくれている。

肉を木の枝に刺してたき火にかざす。

塩こしょうを振って焼いている。


振動と雑音の接近を感じ取ったムサシのリミッターが外れ、CPU速度と動作速度が跳ね上がり、打撃設定は『中』から『強』になった。


目視で武器(剣と弓)が確認できたため、ムサシは攻撃に転じると同時に、アイは懐中電灯形吹き矢を構える。


今回の懐中電灯は高輝度LEDが1秒点灯のあと、照準レーザー光に切り替わる。

矢は針が長くなったダーツの形状。

針が円錐状の毒内包で、かつ、中腹部に魔石と風魔法陣が封入された自己噴射形になった。


矢は2種類ある。


針の中に毒を持つ内包型と鋼鉄針の後ろに毒袋を抱えた破裂型の各3個で計6個内臓できる。

長さ15cmの単三電池のようなダーツを6本、カートリッジで後部からセットする。


遠距離攻撃手段としては、命中精度の悪い魔法よりも懐中電灯が良い。

私とアイはこれを使って、弓使いを攻撃。

打ち上げ花火のように『キュイン』と噴射音を出してダーツの針が高速で飛んで行く。


最初の5000ルーメンの光で目がやられたのか、相手の放った弓は全く異なる方向へ飛んでいった。

だが、風魔法を纏っていたような…。



剣で攻撃する近距離タイプの相手は、ムサシの敵では無かった。

鋼鉄剣の二刀流で防御として合わせた筈が、相手の剣を切断してしまう。

剣の速度が違うのだ。


そしてすぐさま、もう一方の剣が死角から飛んでくる。


『ティン サクッ』 『ティン サクッ』 『ティン サクッ』


そしてムサシは、体内温度を下げるように、息を吐く。


『シューーーー』


恐らく、本当に肺から出た空気なら、これほどの量を吐く事はできない。

呼吸が必要無いからこその排気量なのだ。



ムサシとアイは、敵の所持品検査のあと、衣服を剥がし全身をスキャンし記録してから、彼らが出て来た林の中に死体を投げ捨てる。

全員男である。



ムサシ「単なる盗賊のようです。」



「あー。肉が焼けたよ。皆で食べよう。」



何となくだが、この帝国も共和国と同じように、治安は悪く、集落の周辺に囲いを作り、畑や馬を育てていた。

どうやら、囲いの無い場所は何も栽培していない手つかずの自然。


だとすれば、ポルトランド市の人口は1万人程度かも知れない。

労働人口が圧倒的に足りないのだろう。


5月なので火は落とし、真っ暗闇の中で草地に寝袋を出して眠る。

川の静かな音だけが聞こえる…おやすみ。

アイとムサシが見張りだ。


翌朝、アイに起こされて川で顔を洗う。

拠点で焼かれたパンに昨夜の焼肉を挟んでハンバーガーにしたものを食べて朝食は終わりだ。

川沿いの変わらぬ風景を見ながら馬で走ること3日目にようやく小さな村への標識があった。

ハーミス村というらしい。



驚いた事に、砦のように丸太を地面に刺した防壁が作られている。規模が小さい村だからこそ、防御が必要なのだろう。

おとといの5人組の盗賊を思うと納得だ。


街道から分岐して村への進入路を行くかどうか、一瞬躊躇ちゅうちょしたが、状況調査に来たのだ。


ここは行こう。そう決心して砦の防壁へ進んでいくと、防壁の扉が開いていたので馬を下りる。


近づいて行くと、守備兵の2人がアイの姿を見て、ほっとした表情になったのが分かった。

女連れは盗賊ではないという認識のようだ。


「この村で休憩をさせてもらえるのかな?」


守備兵「ああ、冒険者なら歓迎する。ギルドカードを見せろ。」



全員分を見せたが端末などは無いようだ。


守備兵「おーい。冒険者だ。」


村の中に知らせるように大声をあげた。

すると、代表者らしい男がやってきた。


男「やあ、いらっしゃい!冒険者なんだってね。」


「はい。もしかして珍しいんですか?冒険者。」



男「まあね。とにかく中を案内するよ。」


まるで集会所みたいな建物に案内された。

中は食堂にもなっているようだ。

5~6人の中年男性が一角で相談事をしていたようだが、私達3人が入ると全員がこちらを注目している。


男「私はこの開拓団の商人をやっているマイケルだ。よろしく。」


「私はカール、リーダーのムサシ、彼女はアイです。主に私が交渉と買い付けをしてます。」


マイケル「つまり、君も商人というわけだね。ははは。」



「はは。ところで、何か食べ物を買う事は出来ますか?」


マイケル「ああ、肉類が数種類とパン。あまり種類はないが。」



「それにしても、立派な砦ですね。」


マイケル「ああ、我々も初めて来た時には驚いたよ。」


「では、開拓団の人が作った訳ではないのですか?」



マイケル「ああ?知らないのか。じゃ君達は王国から来た冒険者なのか!」



「そうですけど、なんかまずいですかね。」



テーブルの一角で相談事をしていた6人の中年男性がやって来た。


男性「王国から来た冒険者だったのかー。」



マイケル「おいおい!この子達が怖がってるだろうが!そこのテーブルで座ってろ!」


横を見るとアイが怖がっている振りをしていた。




お読み頂き、ありがとうございます。

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