第11話 謁見
家電メーカーの技術担当が異世界に転生しカール君として生きていく。エンジニアだった経験を活かし、生産職としてハッピーエンドを目指して生きていきます。暇つぶしにどうぞ。
年末近くになり、鋼鉄剣が150本完成したばかりの時、王都へ呼び出しを食らった。
『あちゃー』と思ったのだが、仕方ない。
呼び出しはウィリアム・グランデ国王陛下からで、父ビリーと祖父ダグザ、そして私カールの3人だ。
王都まで5日の旅。
その馬車の中で父から聞いた話だと、試斬をおこなった際のサンプル品、つまり、鋼鉄剣と2つになった鋳造剣を守備隊から宰相閣下に送って、裁可を仰いだのだが、切り口が見事過ぎて…つまり、脅威を感じた宰相は、発注許可と同時に、陛下へも報告したそうだ。
武器などの情報、とくに守備兵の支給品ともなれば容易に外国に漏れてしまう。
国の騎士団だけならともかく、という事らしい。
(さもありなん…とか言う場面だろう)
(面倒な事は嫌なんだよなー)
そんな事を思いながらも、ちゃっかり自分用の片手剣は身に付けてきた。
自慢したい気持ちもあるんだよね…実は。
今回の王都への旅では、きっと馬車の中でやる事がないだろうと予測し、精錬前の銀粒をある程度の量を購入してきたのだ。
今回もこの精錬前の銀粒を土魔法で練り練りして、暇をつぶそうという作戦なのだ。
鉄から銀と鉛へ金属が異なると土魔法の練度が必要になるし、まして、質量が上がるほど魔力は必要になる。
しかし、これも3時間も経たずに魔力が切れてしまう。
うとうとしていたが、気が付いたら眠っていた。
目を覚ますと、なぜか父から
「すまんな。結局、お前に負担を掛けてしまった。」
と言われ、『とんでもないです』と返す以外に言葉は浮かばない。
外の景色は森林と岩山が交互に現れる、そんな自然豊かな環境だ。
でも水資源のない場所への定住は困難だろう。
「この辺りに、盗賊なんかは出ないんですか?」
と父に聞くと
「この国では長らく争いごとがなくて、平和なんだよ。北側はあふれ出た魔物を我々が押し返して、今は一応、平穏のようだ。ただ、北側はいまだに国としては機能していないみたいだ。」
ダグザお爺さんはもの知りだ。
「東側の大きな森の向こうには『セントラル帝国』という国があるんだが、どうやら内紛が発生していて、しばらく貿易が止まっているらしい。」
そのほかの国などは、父たちの話題にも上っていないみたいだ。
グランデ王国の北西に位置する国境の田舎町フェドラ。
そんな田舎町に住む移民2世と3世が、なぜ国の中心地にある王都へ行く事になったのか…。
更にブラックな環境に足を突っ込む予感しかしない…。
練り練りの旅…僕はそう呼んでいるのだけど、5日目に入り道路が格段に良くなった。
道幅も馬車が余裕ですれ違う事ができる。
父も祖父も知らなかったのだけど、この王都はもっと西側にあったのだが、中央へ遷都した人工的な都市だった。
元々は開拓村であったそうだが、国が豊かになり、経済規模が大きくなったため、開拓村の麦畑を潰して、ここへの遷都を決行した。
それが正解だったのだろう。
特に道路幅が拡幅され、物流が容易になった事で、計画外に商業が発展したようだ。
狙った事ではないにせよ、発案と推進した宰相は大手柄だ。
国王陛下に至っては、もはや人気絶頂のようだ。
そんな笑顔キラキラの国王陛下に謁見ときては、父と祖父は緊張でカチカチなのは当然か。
控室で武器類を預かる騎士に守備隊隊長と父が剣を預け、祖父は丸腰だったので、私の剣だけ預けた。
控えの部屋に宰相がやって来て、守備隊隊長との会話のあと、父に話しはじめた。
「遠路すまんな。私はロベルト・カルバン。宰相という職務を仰せつかっている。いや、今回は純粋に技術的な話をしたかったのだ、供給体制の事もあってな。」
「だが、どうしてもウィリアム国王が会いたいと言うので仕方なく謁見の運びとなったのだ。」
「とんでもない。有り難きお言葉でございます。」
恐縮しながら父は緊張した声で何とか返事をしていた。
「して、彼が開発者のカール君なのか。」
「はい。息子のカールと、教育をしてくれている祖父のダグザです。」
「カールです」
「フェドラ町で武器屋を営んでおります、ダグザでございます。」
この挨拶のあと、守備隊隊長が謁見の指導をしてくれた。
予想される言葉と対する返事、そして礼の仕方など。
しかし、我々は平民であり貴族ではないため、それほど気にする必要はないらしい。
「お時間でございます」
案内が時を告げると、隊長を先頭に、父、祖父、私と続く。
謁見の間に到着すると隊長の頷きとともに、扉が開いた。
大きな丸い部屋を想像していたが、四角い部屋の奥に王様と先ほどお会いした宰相閣下がいた。
「入りなさい。」
宰相の言葉を合図に部屋の中に進み入り、中ほどで跪いてお言葉を待つ。
国王
「遠路はるばるようこそ来てくれた。私がウィリアム・グランデだ。」
国王が手で合図すると、渡したサンプルを騎士が持ってきて、国王に差し出した。
国王が手にしたのは、真っ二つに切られた支給品の鋳造剣だった。
「このような切れ味の剣、どのように作りだしたのか、教えてくれぬか。」
誰も返事をする事ができなかった。そこで宰相が
「カール。言葉使いは気にしなくて良いから、分かる範囲で話してもらえないか」
「はい。鉄の剣は内部に不純物を含んでおりまして、これを叩いて鍛える事によって、追い出し、硬くすることができるのです。」
「ほほう。」
「但し、叩き過ぎると硬くなり、折れてしまいます。折れにくく曲がりにくい剣にしたのが、今回の鋼鉄剣です。」
「ほう。たったそれだけの事なのか…。」
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