第108話 共和国の状況報告
王国歴 263年2月第4週
2日後、参謀部の映像モニターがある部屋に集合したのだが、宰相のほかに、王太子、アンジェラ姫、シンシア、エリオットが居た。
(確かに関係者ではある…)
宰相「カール少将、共和国への潜入、ご苦労であった。」
王太子「ご苦労さま。」
アンジェラ姫「ご苦労さまでした。」
「あ、ありがとうございます。」
エリオット「偵察機の出撃要請があった時点で、共和国潜入の事実は宰相閣下、及び、両殿下には報告済です。
「あー、そりゃそうだな。」
「えーと、彼女は「アイ」という名で、アリスそっくりのAI人形です。アイはアリスが不在の時に私の護衛として、また戦力として私を補佐します。」
紹介が終わると、パーカーのフードを取り、お辞儀をするアイ。
言葉は話さないと事前に決めていた。
言葉を出す場合には、男と女の合成音声を出す。
宰相「おお、本当にそっくりだな。」
エリオット以外の全員が驚いていた。
「アイ、自己紹介。」
アイ「ア イ…で す」
合成した音声を聞いて、目を輝かせていた全員ががっかりした顔をした。
これでいいのだ。
手に入れた羊皮紙の共和国地図を広げて見せた。
「これは太原という町で手に入れた冒険者手作りの地図です。まず始めに砂漠を越えた、この地点に天然の木を利用したアンテナを設置しました。そして、この周辺を偵察機に偵察させたのですが、周囲には砦も軍もいませんでした。」
「そこで、発見した『ホクヘイ』という町に接近したのですが、冒険者という設定の我々は北から侵入するのは不自然なため、街道を南下。そこで次の都市の太原の情報を得て、装甲車で南西に移動し、太原の宿で、この地図、及び、首都チョウアンの情報を得たわけです。」
結果的に、判明した情報をまとめると
1.共和国に城壁を持つ五大都市が存在し、それぞれが蛮族の拠点である。
2.五大都市は、長安、洛陽、成都、襄陽、漢中という。場所は地図参照の事。
3.長安が首都、共和国のトップはキム大統領というのは、いずれも偽りである。
4.近年、天候不順により凶作が続いている。
5.南部は穀倉地帯であり、不作ではあるが北部ほどではないため、南部へ移動する民が多い。
6.国民性として、定住を好まず遊牧的性質である。
「こんなところでしょう。」
宰相「あとで質問させてもらおう」
「では、今回の潜入目的の画像を見て下さい。」
スイッチャーBOXの外部入力端子に魔石BOXを接続。
前回、フローレンスに見せた映像の音声を抜き、字幕が無い物を再生して見せると、全員がピクリとも動かなくなった。
いや、動けなくなったと言うべきか。
宰相「この女性を助けにいったのか…」
アンジェラ姫「なぜ、この人を助けに行こうと思ったのです?」
「男神さまからの依頼なのです。この人は、フリアノン女神だった人です。」
公然と『フリアノン女神』と言ったのだから、驚いたに違いない。
宰相「消えたのは、亡くなったという事か?」
「はい。ただ本来はこの指輪にやすらかな魂を宿し、持ち帰る予定だったのですが、男神さまの推測では、共和国に対する怒り、くやしさの感情が爆発して闇の魂となって消えたようです。あの黒い靄がその根拠です。」
これからも共和国には災いが続くだろうから、近づかないようにと警告されました。
宰相「わかった。」
王太子「我が国への影響はないのだろうか。」
「問題はその点ですが、闇の力が強くなる、すなわち、魔物が増える事になるでしょう。通常の中型獣や大型獣でも脅威はありますが、中型魔獣や大型魔獣となると話は別です。共和国側に面した鉱山町イワノフやセイトの近海、湖の町バルナなどは警戒が必要でしょう。」
「そこで、バルナの南方方面軍には、高速哨戒艇を5隻程度配備しようと思います。これは、帰還するルートを湖の近くに変更して発見した敵砦にあった湖周辺の地図です。こちらも渡しておきますので、書き写しておいてください。」
王太子「わかった。すぐに手配する。」
アンジェラ姫「では共和国の避難民が我が国に押し寄せるという事態は無いという事ですね。」
「はい。とてもいい指摘です。共和国の民は教育を受けておらず、蛮族のやり方を見て育った者達。すなわち民も弱いですが蛮族です。その事を忘れないように。」
宰相「国の体を成していないな。」
「はい。拾った物は自分の物、というのが彼らの常識です。」
「したがって、アンジェラ姫さま『共和国からの移住は不許可。一時滞在や他国への通過は冒険者のみ』とし、これを広く告知して共和国から王国に来ないように周知してください。」
アンジェラ姫「わかりました。」
「これで共和国に対する軍事と外交の方針は大丈夫でしょう。」
「宰相、別件ですが、よろしいでしょうか?」
宰相「何だね。」
「エリオットをシンシア様の部下として、ふさわしい階級をあげてくれませんか?」
宰相「確かにそうだな…。いや、失念しておった。」
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