第105話 青瓦台襲撃
青瓦台は小高い丘に建設されていた。
近くまで来ると検問所があるが、横から侵入すればいい。
何と木の塀なのだ。
簡単に越えられる。
四角い建物で瓦屋根ではない。
名前だけなのだ。
「(アイ、赤外線視覚共有。)」
アイ「(赤外線視覚共有、セット)」
周辺に警備兵は巡回しているが、アイの懐中電灯の吹き矢で、痺れさせる。
『シュッ』
『シュッ』
2人を倒し、建物の壁沿いに素早く警備口へ移動する。
警備兵が居る裏口なのだが、ここを襲撃して、兵士を倒した方が早い。
部屋の中を赤外線で見ると熱源が6人。
アイの毒攻撃が有効だろう。
風魔法で部屋中につむじ風を起こし、毒薬の粉末を散布する。
うめき声をあげながら、出口へ来た者は仕方なく切り倒す。
しばらくして静かになったが、ここから地下牢に行ける筈がない。
大統領専用の地下牢だと聞いているから。
警備室を通り越し、中の通路へ。
先ほどと同じく赤外線で熱源を探す。
正面入口から考えれば中央の2室は受付か事務室だろう。
両サイドの部屋からチェックするが、私は鍵を開けるスキルは持っていない。
鍛鉄ナイフでドアの鍵ごと切り落とす。
『ガキン』
「誰?」
返事などせず、尋問もしない。
心臓を一突き。
ここは仮眠室のようだ。
再び通路に出て、反対側の端の部屋に移動。
同じくドアの鍵ごと切り落とす。
『ガキン』
正解のようだ。
正面側からの扉が無く、階段がある。
どうせなら上の人間から片付けてやろう。
そっと階段を上がると隣の部屋に続く側にのみ扉がある。
中に家具があるのか赤外線が通らない。
「(アイ、痺れ毒の矢を用意。)」
「(完了)」
簡単に扉は開き、部屋の中は魔道具によって明るかった。
「誰…」
大統領と思われる男は麻痺させて、いちゃいちゃしていたと思われる女は心臓を一突き。
「(この男を連れて地下に下りる。この男は地下牢に置いていくつもりだ。)」
アイ「(了解)」
階段を下りて地下に下りるが扉には鍵は掛かっていない。
鉄格子で出来た牢屋が2つ並んでいた。
手前の牢屋の壁に女性がつながれていた。
おそらく、この女性がフレアであろう。
だがまず、このキムを隣の牢屋に放り込んでおく。
再び、フレアの所に戻り、壁に繋がれた手枷、足枷を錬金術で変形させて拘束を解く。
「フレアさん」
呼びかけにも返事がない。
手首をつかみ『キュア』と『ヒール』を掛けるが霧散してしまった。
こんな事は過去には1度も無かった。
今度は分析を行う。
『あっ』と声が出てしまった。
見た目は人間でも、中身は人間ではなかった。
中は全く見えないのだ。
「(あなたがカールさんですね、ありがとう)」
頭の中に直接声が届いた。
フレア「(あなたが私を分析した通り、私は人間でも神でもない。キムに強引に妊娠させられたわけではないわ。あの時、キムは確かに私との子を欲しがった。それが分かったから自ら人間の子を宿したのよ。)」
フレア「(あなたがその指輪をしているという事は、私のこの姿が消えた時、私の魂をその指輪に留めて、フローレンスに届けてもらえるように、というそういう意味でしょうね。)
フレア「(でも私はあの子に本当に悪い事をしてしまった。母親としての務めも果たせず、あんな男に捕まって……)」
段々とフレアの魂が力を取り戻していく…怒りが、くやしさが、魂に力を与えているのだ。
フレア「あの子に何と言えばいいのよ!!」
大音響とともにフレア自身が黒い霧となって爆発するように霧散してしまった!
私もアイも爆風で倒されて、床に尻餅をついていた。
「えええええー」
男神「(だめだったかー。)
「(男神様!)」
男神「(うまく行かなかったのは、君のせいではない。どうもこの世界を混乱させようとする者がいる。君も気が付いているだろう。)」
「(何か変だと…違和感はあります。)」
男神「(うむ。具体的には?)」
「(古代中国の地名や大統領という呼称、それに、青瓦台という建物名。すべて地球の物です。)」
男神「(やはりか…。地球の神の一柱が、こちらに干渉しているようだな。それもこれもフィアナが原因なのだがな。正式に謝罪はしたのだが…困ったものだ。)」
「(私はどうすれば良いでしょう?)」
男神「(仕方ない。君ならフローレンスを保護しているし、何とかなるかと思ったのだが、怒りの心が強すぎて制御できなかったのだろう。諦めて帰国した方が良い。)」
男神「(今後、この国は様々な災いに見舞われるだろう。当分近づかない事だ。)」
また、言いたい事を言って、消えてしまった。
こうなった以上、キムには罰を与えておかなければならない。
壁からの手枷と足枷をキムの両手両足につなぎ、壁から『はりつけ状態』にして、室内には毒を焚いておく。
「(さあ、宿にもどろう)」
アイ「(はい。)」
青瓦台の建物から出て、アイと手をつないで夜道を歩いて帰る二人であった。
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