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第5話

 私はこれを読むと、すぐに立ち上がり、寮監の元に向かった。

 そして休暇願いを出し、家に戻った。

 離れへ飛び込むと、母に手紙を見せた。


「……あああの子! 幸せでいるのね……」


 母は心底嬉しそうに泣いていた。


「お母様、お母様はローズ姉様のことは」

「複雑な気持ちはあったわ。何よりまだ私も若かったから、シェリルのことを思うと苛立ちや、怒りや、そういうものが溜まって…… 本当にあの子には可哀想なことをしたわ。あの子自身には何の罪も無いのに」

「お姉様がお父様に困った目で見られているのも」

「ええ、気付いてました。だからこそ、できるだけ遠ざけようともしていました。いくらシェリルの面影があるからと言っても、実の娘に向ける視線じゃあありません。……だから、私は正直あの子が駆け落ちした時ほっとしたのです」

「お母様は、お姉様のあの行動に怒っていたのでは」

「厄介なことになった、とは思いました。さすがにスキャンダルですからね。でもこれであのひとからはきっぱりあの子が逃れられると思うと、ほっとしたのですよ。でもその一方で、あの子が居ないことに喜んでしまっている自分も居たことに、私は」

「罪の意識を持ってしまったのですね」


 母はうなずいた。


「それでずっと、こちらで」

「ありがとうベリー。私はこれでようやく思い切りができたわ。貴女方、娘二人が嫁いだらあのひととは別れます。離婚という形にはならずとも、この家を離れようと思います」

「いいえお母様、マギーはともかく、私のことは気にしないでください。そんなことを言っていたら、いつになってもお母様は辛いままです」

「ベリー……」

「マギーは明るくてあちこちから話が色々来ています。きっと結婚も早いでしょう。お母様、そうしたら、二人でしばらく国を離れてあちこちを回りませんか? お母様はずっと気鬱だったんです。きっと療養するに良いところは大陸にあると思いますの」


 ふふ、と母は笑った。


「それはいいわ。そして何年も回ってきましょう」

「フランスの有名なお菓子屋にも行きましょう。そして思う存分美味しいお菓子を食べましょうよ」


 それから私はハルバートや母の実家とも相談し、その話を進めていった。

 父には内緒で。

 私達が出発したのは、父が出張で家を空けている時だった。

 一応理由を書いた手紙はしっかり残してきたが、母の実家が父を止めてくれるだろう。

 幾らでも父を責める点はある。

 シェリルのこと、ローズのこと、そして母の気鬱の原因。

 祖父母はきっと父を締めてくれるだろう。


「ああ…… いい風ね。今までのくさくさした気持ちが飛んでいきそうだわ」

「そんなものはここで飛ばしていきましょう!」


 大陸へ渡る船の上、私と母は風を受けながら、しばらく離れる母国を眺めた。

 帰る頃には、何か変わっているだろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうなるの…? っと話しを追っていたらおおっ! となる展開。 [一言] 大陸へ旅をして、元気になったおかあさまに新しい出会いがあったらいいなぁ。 閑話をもう一話プラス希望。 16,7…
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