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第1話

 気付いた時には一番上の姉は母から酷く冷遇されている様だった。

 我が家は成り上がり系男爵家。

 先代、お祖父様が他国との戦争の際に多大な協力を国にしたということで、準男爵から男爵の位へと引き上げられたと聞いている。

 お祖父様からお父様に代替わりしてから、事業は時代の波に乗り、どんどん広がり、我が家もそれに伴い以前より大きな家、沢山の使用人、そして広大な庭や領地のある場所へと引っ越したということだ。

 そんな大きな家で、私達きょうだい四人はのびのびと暮らしていた。

 一番上の姉のローズ、兄のハルバート、下の姉のマーゴット、そして私ベリンダは、皆本当に仲良く暮らしていた。

 兄だけは女ばかりの中に、と時々不服そうだったが、彼は彼で物足りない時には執事や森番の息子と遊ぶことで気を紛らわしていた。

 母はいつも私達のそんな姿を夫人としての日々の執務の合間に窓越しに眺めていた。

 家が大きくなったことで、何かとお客様も増え、母はその対応に常に追われていた。

 それでも時折その合間に、外や子供部屋にやってきては、私達の顔を見にやってきては、ゆっくりと話を聞いてくれた。

 皆、母の周囲に集まっては、勉強がここまで進んだとか、先生に絵を誉めてもらったとか、他愛ないことを報告したり、時にはカードゲームにも少しだけ付き合ってくれたりもした。


 そんな中、母がローズだけに冷たいのに気付いたのはいつだったか?

 クリスマスの贈り物がずらり、ツリーの下に並べられた中で、彼女だけに母からのカードが無かった時?

 それとも、子供部屋にやってきた時、ローズだけが母の後ろで慎ましく控えて、問われるまで声を掛けないことに気付いた時?


 ローズは大人しく、優しい姉だった。

 私より十歳も上だ。

 ハルバートとは五歳、マーゴットは七歳離れている。

 だから大人だからかな、と幼い私は思っていた。

 私がようやく乳母の手を離れて庭の外に走り回りに行ける様になった時には、既に彼女には社交界のマナーを教える教師がついていたくらいだ。

 それだけ離れた存在だったが、私は大好きだった。

 それだけに、一度気付くと目に付き出すことが多くなってきた。


 たとえば誕生日。

 私達の時には、わざわざフランスから菓子職人を呼び寄せて、その時期最高と言われている様なケーキを用意してくれた。

 だが、ローズの時だけは、家のコックが腕を振るうことになっていた。

 いや、家のコックのものだって充分美味しい。

 ただ派手ではないし、新しいものでもない。


「昔はしてもらっていたのよ、でもいつまでもそんな歳でもないでしょう」


 ローズはいつもそう言っては儚げに笑っていた。

 一方、父からのプレゼントは皆均等にあった。

 多少ローズに多かったかもしれない。

 内容も既に大人に対するものに近づいていたせいだろうか。

 小さな包みであっても、淡い色のリボンを外すと中から出てくるのは美しい透き通った宝石を使った、きらきらした髪留めやネックレス、指輪、腕輪と言ったもの。

 私は自分もあと十年したらこの様なものを父から貰えるのかな、と思うとわくわくする思いだった。

 だが鏡の中の私はどう見てもローズの様に美しく成長できる様には思えなかった。

 そこで時々母に、


「私も大きくなったらローズ姉様の様に綺麗になれるかなあ」


とぼやいていた。

 するとその時の母は必ずと言っていい程、それまで膝の上で軽く握っていた拳をぎゅっと固く締めた。

 そしてこう言った。


「ローズとは違うでしょうけど、きっと綺麗になるわよ」


と。

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