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正統派ヒロイン美少女とデートして羨ましがられる的なお話 そのに



<翌日の放課後>


-正門-


「響木君ーっ! お待たせー! ごめんね、待った?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 正門で5分くらい待っていた俺に、美少女正統派ヒロインっぽい仕草で雨さんが駆け寄ってくる。

 だが、一人しかいないようだ。他のみんなには声をかけたのだろうか。


「雪ちゃんは沼、太陽ちゃんは穴、夜ちゃんは塔に行くから今日は付き合えないんだって」


 一体全体どういう事なんだ。

 あの人達はドラクエの世界にでも行っているのか。


「じゃあ行こっか!」


 そうして俺達は商店街へと向かった。


           *


<商店街>


「なんだかこうしてるとデートみたいだねっ、私した事ないから憧れてたんだっ」


 意外だった、容姿だけは完璧な女性だからそれくらいは当たり前にしていると思っていたが。

 男であれば確実に声くらいかけるであろう、性格さえ知らなければ。


 現に雨さんの後ろにはうちの男子生徒がぞろぞろと列をなしてついてきていた。


 なんだ、ここがドラクエの世界だったのか。


「この子達はいつもこうだから気にしないでね、なんか私のファッ・クラブなんだって!」


 れいんさんは列を為す男子生徒達を見てそう言った。

 危険な単語が聞こえたような気がする、警察に電話した方がいいのだろうか。


「誤解しないで! わたくし達はファンクラブよ!」


 列を率いていた先頭の唯一の女子生徒が声を挙げる。

 ファンクラブとファッ・クラブをいい間違えただけのようだ。

 なるほど、外見だけはザ・ヒロインの雨さんならばファンクラブくらいは当然あるだろう。


 だから何か俺に対して『殺す』だの『許さない』だの『ファミチキ』だのの怨念籠る呪詛みたいな声が列から聞こえてきたんだな。

 『ファミチキ』って何なんだ。


「だけど……ファンクラブまであるなんて凄いですね」

「えへへ……恥ずかしいんだけどね……」


 そう言って雨さんは頬を赤らめもじもじしだす。

 確かに生理中の狂気に満ちた姿さえ知らなかったらファンクラブがあってもおかしくない可愛さだった。


「じゃあ買い物済ませちゃおっか?」


-------------

----------

-------


<帰り道>


-公園のベンチ-


「今日はありがとね、響木君! いっぱい買っちゃったね!」


 俺達は買い物を済ませ、公園のベンチで一休みする。

 草葉の影からファンクラブの連中がお経のようにファミチキコールをしていた。

 凄く怖いので無視する事にした。


「いっぱい買ったのに全部持ってくれるんだもんね! 凄いね! 響木君! 力持ちっ!」

「いえ……大した重さでもありませんし」

「ふふ、響木君は男の子さんだもんねっ」


 あははうふふと周りが羨むような中々良い雰囲気で俺達は少しの間、談笑する。

 後ろから『ぼええ』だの『ぎぎぎ』だの『Lチキ』だのうめき声が聞こえる

 もう帰れよこいつら。


「もうこんな時間なんだね、じゃあ行こっか」


 携帯を見ると夜19時を回ろうとしていた、気づかぬ内に暗くなっている。


「送っていきますよ、雨さん」

「えっ!? あ……ありがとう……なんか恥ずかしいね……」


 送っていくだけなのに何が恥ずかしいんだろうか。


「だ、だって……本当に恋人みたいで……でも、うん、お願いします……」


 緊張しているのか顔を紅くしてうつむく雨さん。

 何だろうかこの感情は……今まで味わった事のない、何か守ってあげたくなるような感覚が芽生える。


 しかし、俺はもう騙されない。

 太陽も雪さんも夜さんも普通の人だと油断した途端に

 核弾頭なみの爆弾を爆発させて俺は酷い目に合ってきた。

 さすがに俺も学習した

 警戒は決して解かない

 俺は念能力「纏」と「練」による高等技術「円」を発動させ(4Mが限界)雨さんを送り届ける事にした。


           *


<雨さんの自宅>


「あ、ありがとうね響木君……ここだからもう大丈夫だよ……」


 道中何事もなく、(強いて言えば雨さんは緊張していたのか会話が片言でギクシャクしていた事くらいだろうか)、無事家に到着した。


「じゃ、じゃあまた明日ねっ! おやすみなさいっ!」


バタン!


 そして雨さんは豹変する事もなく家へ入っていった。


(………? 何もない……だと?)


 それは俺が部活において、唯一の癒し、拠り所を見つけた瞬間でもあった。

 生理時さえ回避すれば雨さんは比較的まともな人間、唯一の俺の理解者。

 俺は喜びに打ち震える。


「甘いわね」

「うわぁぁぁっ!?」


 突然、電柱の足をかけるような部分からまるで忍者のように逆さ吊りに頭上から女性が目の前に現れた。

 「円」を解いていた俺は普通に悲鳴をあげた。


 よく見ると、その女性はファンクラブ列を率いていた女の子だった。ファンクラブはいつのまにか消えていた。


「初めまして、わたくしは雨の幼なじみ【藤紫陽花 (ふじむらようか)】よ。わたくしの可愛い雨のファンクラブ親衛隊長をしているわ。貴方は雨が初めて恋心を抱きかねない男性になった、努々(ゆめゆめ)気をつける事ね、わたくし達にもそうだけどーー何よりも雨自身にね」


ズルッ


ゴチン「ぎゃっ!?」


 長々と喋っていた親衛隊長は普通に足を滑らせ、頭から地面に落下した。

 下着が丸見えになった。


「どうやらお仕置きが必要のようね」


 親衛隊長はそう言うと

 犬のようなポーズで俺の足におしっこをかけ

「これこそがシャカシャカチキンよ!」と訳の分からない事を言って

 ダックスフンドのようにヨチヨチと闇へ消えていった。


 俺は絶望する

 雨さんを回避しても

 雨さんを取り巻く周囲まで狂気の変人がいた事に。


 それは俺の心が休まる時は決してないという証明だった。



       〈雨の生理予定日まであと20日……〉





























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