嫉妬
「あんたは男を見る目がない」
小中高とずっと一緒にいた友達にそう言われた時、頭を何かで殴られたような頭痛がした。
彼女も恋愛経験は少ないはずなのに、そういう風に思われていたのか。
「私、あんたの今の彼氏嫌い。」
私と彼氏と三人でスターバックスに行った日の帰りだった。
キャラメルフラペチーノが飲みたい。朝起きてすぐに彼に電話をかけた。彼はいいね、と言って車で迎えにきてくれた。
友達も呼びたいと更にわがままを重ねても、いーじゃん呼ぼうよと言って笑ってくれた。
「優しい人でしょ。」
私は、今日一日彼が私のわがままを全部叶えてくれたことに満足であった。そして、更に彼を好きになったところであった。
三人でスターバックスに行った後、彼はバイトがあると帰ってしまい二人で家まで歩いている。
「いつから付き合ってるんだっけ」
「んと……バレンタインの後あたり、かな?」
覚えてないの?と彼女は訝しげにこちらを見る。
「まさか、記念日は覚えてるよ。流石に。」
「ふうん。」
しばらく沈黙が続くが、私と彼女は喋らなくても特に気まずくなるような仲ではない。むしろ沈黙はいつものことなのだが、今日は違った。
何か、言葉を飲み込んでいるようだった。
しばらく歩き、ようやく彼女は口を開く。
「今の彼はタバコも吸うし、酒もよく飲むし、女の子とだって遊ぶじゃん。」
うん。私は軽く相槌を打つ。
「あと、なに考えてるかわかんないし……」
彼女は足元に転がっている小石を蹴りながら言う。
「ん……。タバコもお酒も別にいいよ、未成年じゃあるまいし。女の子のことだって気にしてないし。」
私は転がる小石を眺めながら答える。
「なんで気にならないの〜。ストーリーいっつも女の子との写真じゃん。」
彼女は口を尖らす。
「二人じゃないじゃん。バイトのメンツらしいよ」
「それでもさ!!あんたが傷つくのやだの!」
彼女が蹴り上げた小石は宙に浮かんで遠く行く。
「じゃあ、なに。前の彼氏の方が良かったってこと?」
私は彼をバカにするようなその態度に腹を立て、つい喧嘩を売るような言い方をしてしまう。
「そういうことじゃなくてさ。前の彼氏も今の彼氏もなんか、好きじゃない。」
じゃあ誰だったらいいのよ。心の中でついた悪態がつい口から漏れだしそうになる。
「今日、あんたがトイレ行ってる間、私とアイツで会話なかったんだよ?スマホばっかいじってた。普通さ、彼女の友達と会話を広げようとかとは思うじゃん。」
彼女の普通が正しいのかすらわからないから、彼の行動が悪いことなのかはわからないが、彼女はそれが気に食わなかったらしい。
「いまはアンタのこと好きだから優しいし尽くすけど、冷めるのも早そう。」
うーん。私はいま尽くされてるこの状況から結構好きなんだけどな。そう言うと、彼女は大きなため息をついた。
「幸せなのは今だけだよ。あれは、冷たい男」
彼のなにを知っていると言うのだ。前の彼氏の時だって、早く別れろとしか言わなかったくせに。
「あんたも、実際彼のことそんな好きじゃないでしょ?」
「好きだよ!」
つい声を張ってしまう。
好きだから、付き合ってる。好きだから会ってる。好きだから電話もする。好きじゃないと、しない。
「ふうん。別にいいけど。私はあんたのことを思って言ったんだからね。」
へえ。私のため。
「恩着せがましい。」
私は吐き捨てるようにしていい、彼女のもとを離れた。
LINEの通知が鳴る。
『バイトのあと、いつものメンツで飲み行くわ〜』
彼からだ。
『いってらっしゃい。』
私は素早く返信を打ち、携帯をポケットにしまう。
ああ、でもたしかに……彼女の言う通りだな。
私は謝りに彼女の元へ踵を返す。
私より彼女のほうが私のことを知っているのだ。
誰よりも傷つけられたときに一緒にいてくれて、今回も心配してくれたのだ。
「ごめん。ひどいこと言って。やっぱ別れる。」
「あ、やっぱ自分でも気づいた?」
私は頷く。
「嫉妬深いあんたが、今の彼に嫉妬してないこと。」