取り戻す。
賢悟は学校帰りの道をユニフォームのまま走った。踏み込んだアスファルトからスパイクの擦れる音が響く。
走りに走り抜き、賢悟は河原の遊歩道の手前まで駆け出た。
すると、遊歩道に連なる四人組の姿が見えた。ゆるゆるとした独特の速度で歩いているのが見える。
(いた………!!!)
間違いない。あの男だ。
例の片岡晃という男と、その横には萎縮した様子の温彩。
そして後ろには金髪で小太りの男と、脱げそうなくらいにズボンを下げて履いている男が、並んで歩いている。
河原の風景も、浅ましい笑みを浮かべる男らのせいで歪んで映る。
「おい待て……!!」
道路を挟んで呼び止めた。
「んあ?誰ー?」
鼻ピアスが振り向いた。
(えっ……ケ、ケンゴ……!?!?! )
温彩の瞳に、こちらを猛然と追い上げてくる賢悟の姿が映る。
一段上がった遊歩道に駆け上がり、白襟を風に震わせる賢悟が眼前に立った。
「そいつ返せ……」
鋭い目、たなびく黒い鬣、そして息を切らせているのにもかかわらず、静かに威容を放っている。
「おやおやおや?こないだの野獣くんじゃない?どーしたの今日はそんな格好で。ひゃひゃひゃ」
「うるせェよ。ごちゃごちゃうぜぇな」
「あれれ?何かご立腹ぅ?」
「当然だ。そいつ返せ、タチ悪りいぞ」
賢悟の肩から闘気が立ちのぼっている。そう見える。
「あららら、ライオン丸ちゃんはヤル気満々みたいねん?なんなら下の河原におりちゃう?ここでレッスンするのが好きなんだもんねえ?」
晃がそう言うと同時に、両脇の男2人がニヤつきながらせり出してきた。
「色々と芸を教えてやろうかぁ?」
堪らずに温彩が声を上げた。
「ケンゴ練習は!?なんでこんなとこに来てるのよ……!!」
「お前こそ何やってんだバカが!」
逆に怒鳴られてしまった。
(ケンゴ……)
その直情を表す激しい声に、思わず揺らめいた。
(こ、来ないでよ……お願いだから)
踏ん張っているのに、精一杯立っているのに、勝手にまたすくい上げようとする――。
「バカで結構よ!戻ってよ!……戻ってよグランドに!」
今にも泣き出しそうな顔で叫んだ。
「冗談じゃねぇよ」
――いつも試合前に、沖が言っていたことがある。
『どんな局面でも冷静さを欠いてはいけない』
冷静さと的確な判断。それを鈍らせてはダメだ。どんな時も……
しかし。
理知にばかり囚われていては進めない時もある。本能でぶつからなければいけない時もある。
フィールドで賢悟に課せられる最大の使命は、『突き進むこと』だ。
そして一点を、もぎ取る。持てるものの全てを賭けゴールに向かう。
最大の敵はゴールだ。そのゴールにぶつける一点。
そう。
そして必要なのはそこに向かう気持ちと、覚悟――。
賢悟は真っ直ぐに温彩を見て言った。
「退部はノーカンだ。こっち戻れアツサ」
覚悟はもう、出来ている。