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真相、現状、この先。

「熱はもうないみたいね?うん、さすが若いと回復も早いわっ。でも今日は一日ゆっくり寝てなさいよぉ?夜もお店はいいから」


温彩の脇から体温計を引き抜くと、いつもの楽観的な口調で叔母が言った。

風邪というわけではないのだが、昨日の夜に熱を出してしまった。


「あ、それからその傷。きちんと病院に行きなさいな。まったく気を付けなさい、女の子なんだからぁ。部活もいいけど程ほどにねえ」


にの腕に切り傷が出来た。

深くはない。きちんと手当てをしていればじきに治ると思う。

包帯だって、半袖の制服にも隠れる。治るまでの間、学校で気付かれないようにすればいいのだ。


「ありがとサト叔母ちゃん……明日学校前に病院行くよ。心配かけてごめん」

「あら気にしないで。そう、それより今日は片岡さんと買い物に出かけるんだけど、温彩なにか欲しいものとかあるぅ?」

「んーん、ない。いってらっしゃい……」

「うん行って来まぁす。お昼置いてるから、ちゃんと食べてね」


叔母には叔母の環境がある。お店の経営もあり、それにあたしを抱えた生活がある。

当然、分かっている。

でも、「片岡」の息子である晃にそれを言われると、妙に現実味を帯び、堪える。


昨日晃が刃物を見せてきた。そしてその切っ先を軽く当てると、温彩の皮膚を薄く裂いた。

警告だ。


甘く考えていたかもしれない。

何をするか分からない男とは思っていたが、まさかこういう風に脅されるとは思ってもみなかった。


『あつさが冷たいからいけないんだよぉ。俺の愛を受け止めてくんないから――』


切られた腕が熱を持っている。


温彩は身を起こし布団から這い出た。まだ少しフラフラした感じがするが、机の前に行くと椅子を引き、深く座った。

そして引き出しから便箋を取り出す。


「書かなきゃ……退部届け」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



午後の授業の予鈴がなった。

グランドに出ている生徒達がパラパラと教室へ引き上げ始めた。桜の下のベンチにも予鈴が届き、ちらりと沖が時計を見た。


「とにかくそういう現状。そして彼の件に関してはお前は手出し無用だ。予選控えてるしな」

「いや、ありえねぇだろ……! だったらなんでオレに話したんだよ」

賢悟は当然、興奮している。


沖は顔を傾けると、

「だから最初に聞いただろ?菅波のことどう思ってるのかって」

そう言って、ひょいと肩を上げた。

「はっ、話しはぐらかすなよ」

「はぐらかしてるのはお前の方だろ上代。今の菅波には理解者が必要だって言ってるんだ。悪いけど俺はフラれてるんだ。彼女の支えになれるのは俺じゃない」


「え?フラれ……?!」

賢悟が聞き返すと沖は、少し笑って言った。

「お前のせいだよ」


「なっ、なんだよそれ……!」

分かりやすい賢悟にこれ以上問う必要もない。獅子も形無しだ。

いちいち過剰に反応する様を気の毒にさえ思った沖は、失笑しながらついしゃした。


「つ、つか、これから先のことはどーすんだよ。あの男のことは!」

「うちのOBがあの男と同じ大学にいるんだ。今日の情報もそっちがくれた。とにかくもうちょっと確かな証拠を得てから具体的に動くよ」

沖が言うも、いまいち釈然としない賢悟。

「報告は必ずするから心配するな。まずはお前は試合だろ、しっかりやれよ」

そう言う沖の言葉に、一先ずこの場は引き下がることにした。


もうすぐ午後の授業が始まる。


「菅波のこと、頼んだぞ」

少し皮肉った口調で、ベンチを離れる賢悟に沖は念を押した。


賢悟は口をヘの字に曲げながらもベンチの沖に振り返り、渋面ながらも「可」のサインを出し、校舎に戻っていった。



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