突入しますっ
合宿生活七日目。今日は夏合宿の最終日だ。
朝食後のミーティングを終えて部屋に戻った温彩は、浜辺が望める窓を開けた。
一瞬、風にあおられて目を伏せる。
昨日、賢悟とおかしなことになってしまった。
水飲み場での、「せめてサッカーだけにはまっすぐでいたい」という賢悟の言葉……痛い言葉だ。‘せめてサッカーだけには……’。
そしてその後のあの台詞。どう考えても、沖と浜で会っていた所を見られていたとしか思えなかった。
最低最悪の、シュチュエーションだ。言い訳けのしようがない……
温彩は小さな溜息を漏らした。
傍らに置いてあった椅子を窓際に寄せ、腰を下ろした。
開け放った窓に寝そべる格好で両腕を重ねる。そしてその上に顎をおき、ぼんやりと外を眺めた。
水平線が見える。
そこに積もる雲と濃い空の色は、相変わらず冴え冴えとしている。
海と空の果てしないブルー。
しかし、目の前に広がる景色に似つかわしくない、重い気持ちが心にのしかかる。
新たに芽生え、やっと気付いたこの想い。安らげる本当の場所。
この、前に進む力になったかけがえのないものを、自分の手で狂わせた。
今まで都合よく賢悟に甘えきたのは事実。だからこそ、誤解とはいえとても不快な思いをさせたことだろう。
自分は賢悟の自尊心を傷つけてしまったのだ。そして完全に拒まれた。
(でも……)
心には、やましい気持ちは全然ない。全くない。
絡め取られそうだった心と、弱い自分を清算できた。そしてちゃんとけりをつけられたのだから、後ろめたさはない。
賢悟を想う真っ直ぐな思いに、嘘や偽りはない。
言い訳ができないのなら、本当の自分の気持ちくらいは伝えたい。
(自分勝手かもしれない……自己中かもしれないけど……!)
この夏合宿で、グンと賢悟に近づけた。
温彩はこの合宿で、賢悟に向かって進んでいきたいと、はっきりと思った。
心からそう願った。
だったらこの合宿中に、気持ちを伝えよう―――
(ケンゴの、部屋に行こう!)
温彩は椅子が跳ね返る勢いで立ち上がった。
このパワーも魔王の御利益だろうか。だったらその力を借りて、魔王本人にだって喰らい付く。
(突入、しちゃえ!)
温彩は窓を閉めるのも忘れ、自分の部屋から飛び出した。