渦巻く。
時計は深夜の1時を回っている。
誰もいないはずの時間帯にシャワールームの中で怒声が響いた。
「……クソっ!!!!!」
何なのか?何故あの2人なのか?
何がどうなっているのか?温彩の本心は、一体どこにあるのか?
そう言えばいつも温彩は泣いていた。それは今日の出来事に関係あるのだろうか……
自分は、涙の理由を、知らない。
(もうなんも分かんね……)
浜で見たものも、この異常な気分も、すべてが解読不能だった。
一体‘何’にこんなに腹立たしいのだろうか……
出しっぱなしのシャワーを頭から被ったまま、賢悟はずっと考えていた。
さっき見たものと、出所不明の憤りがグルグルと腹の底で渦巻く。
更に増して、こうやってグチグチと自問自答を繰り返す自分自身にも腹が立つ。
それに、自分の受けた『衝撃』の大きさにまず驚く。
そうだ。守ってやたいと思ってた。
いつもどこか無理をしているような、いたいけな姿にいつも揺さぶられていた。
そして、温彩もこちらを見てくれているんだと、そう思いはじめていた。
そんな矢先だった。
それが勘違いだったとすれば、こんなに惨めなことはない。いい気になって、浮かれていたのだとすれば……
賢悟はタイルに頭を押し付けた。
(クソ………)
立ち込める湯気が揺れた。
(ダメだ、収まんね……これじゃガキ以下だ……)
身を翻し、タイルに背中を預けると、傍らの鏡に手を伸ばした。
賢悟は鏡のくもりを拭った。
鬣の濡れそぼった、情けない獅子の顔が映った。