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-A's side- ココロの中に

温彩は落ち着かなかった。

それは温彩にとって今日は‘決戦の日’だから。

でも今は、震えるような緊張はない。そんなものは夕方までに吹き飛んだ。

(えへへ。だってまた‘太陽’が見れちゃったんだもんね……)


今日の練習中のこと。

朝まで休んでいた賢悟が、昼からグランドに出てきた。

熱は引いてたけど、何度も何度も水飲み場に足を向けている。

(大丈夫かな?昨日の今日だし、ちょっと心配……)

今もまた、タオルを持ってグランドから姿を消したところだ。


温彩はさりげなく席を外すと、賢悟がいるはずの塀の向こうに向かった。

フェンスに突き当たり、コンクリートの壁沿いを右に曲がる。


案の定派手な水音がしていて、洗い場に体を半分突っ込み、頭から水道水を浴びている賢悟の姿があった。

飛び散る水しぶきに虹ができている。

「おーい、平気?」


賢悟がこっちに顔をむけた。一気に上半身を起こすと、びしゃびしゃの髪を震るった。

開きすぎた蛇口からは大量の水が噴き出したままだ。

「大丈夫だから戻ってろよ」

そういってタオルを被り、頭と顔を同時に拭いている。

「うん、でも……」


(心配して来たつもりだったけど、想像以上の回復力ね)

頭痛もなさそうだし、さすがだ。顔色も悪くない。

(そうそう、そしてその黒いパワーをどうかあたしにも少しだけ分け与え下さい……ブツブツ……)

拝んでみた。


キュルキュルと金属音を立て蛇口を閉めながら、被ったタオルの隙間から賢悟が言った。

「何だよ?またハダカ覗きに来たとか?もしかして本物の変態?」

首まで水を浴びるのに練習着を脱いでいたため、賢悟は上半身裸だった。


(ななな、出たよケンゴの減らず口!)

「バカ!!違うよもう!」

からかわれて思いっきり膨れた温彩だったが、そんな自分の様子に、賢悟が「ハハ」と短く笑うのを見た。

(あ、またケンゴが笑った……)

口を尖らせていた温彩は、瞬時にしてはらりと顔をほころばせた。

年中仏頂面だった賢悟が、随分と気安く笑ってくれるようになった気がする。

そんな気がして、暗雲立ち込めていた気分も夏の空のように澄み渡る。


(やった、なんかすごくラッキー。御利益がありますように……)

思いがけず見れた笑顔に、すっかり有頂天の温彩。

心にしっかりと‘勇気’をもらうと、温彩は満面の笑みで賢悟に笑い返した。


「おちょくられてんのがおかしいのか?」

賢悟は、怪訝そうに温彩を一瞥し、練習着に袖を通しながらスパイクの先で地面をたたいた。

そしてすれ違いざまに、「やっぱヘンだな」と言い放つと、温彩の頭の上に使用済みのタオルをグシャリとのせた。

「うわ、冷たっ」

相変わらず意地悪な魔王だ。

でもその時、「サンキューな」という小さな声が聞こえて、温彩はまた嬉しくなった。


「グランド戻るぞ」

「うん!」

2人は再び、真夏日の下へと踏み出していった。




そして今。

温彩は決戦の夜を、向かえている――。


大丈夫。

ココロの中には、魔王にもらった‘笑顔と勇気’がある。

(ケンゴ。どうかあたしに、力をかしてね)


月が波間に沈み始めた。

沖と会う約束の時間が、刻一刻と近づいてくる。

後は静かに、約束の時間を待つだけ……



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