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SUMMER TIME…その1

この時期、これだけの美観を誇る浜辺でゆったりと過ごせるというのは、この上なく幸せなことだ。一般の海水浴場は今頃、人でごった返しているだろう。

気温は同じでも、人いきれのないビーチは清々しく爽快だった。


「おーい小林~、沖~、こっちこっちー!」

早くもビーチの一角を確保した筒井が、借りてきたパラソルを抱えて小林らを呼んでいる。

「筒井さん行動早いッスねえ!俺たちも借りようかなパラソル」

すっかり筒井ファミリーの太田と迎がせっせと飲み物を準備している。

「そんな高尚なモンはお前らにゃ必要ないない。これは瑞樹ちゃん専用なの。な?沖」

張り切る筒井に、沖はクスクスと笑っている。


沖はというと、どこにいても絵になった。

海風に髪をあおられ、端正な顎のラインから額までが晒されている。

灼熱の季節だというのにその鬱陶しさを寄せ付けず、美しさを際立たせていた。

スラリとした手足にも主張しすぎない筋肉があり、男らしさと色気の双方を漂わせている。

今もビーチを利用している2人組みの女性が、沖をチラチラと見て行った。

先程から何度も同じように、道行く女性達は沖に目を向けては、つぶさに密めきながら通り過ぎて行く。


「うぬぬぬ……あいつら何も分かっちゃおらんな!沖よりもこの俺の『筋肉美』に目を付けンとは節穴め!!」

そういうと胸を大きく膨らませ、ボディビルダーの真似事を始めた筒井。

「あひゃひゃひゃ、ダメですって筒井さん、女の人いなくなっちゃいましたもん」

迎が駄目出しを入れると筒井はすっかりいじけ、羨望と嫉妬の眼差しを沖に向けた。

「うるせー!なんだよなんだよ、沖ばっかもてちゃって……」

困ったように笑うと沖は、筒井の後方に向かって手を挙げた。着替えを済ませた瑞樹が来るのを見つけたのだ。

小林も手を挙げ、瑞樹に声をかける。

「おう!瑞樹ちゃん、こっちこっち」

筒井が放り出したままのパラソルをドサッと砂に刺した。チェアーを広げると、そこに瑞樹を通す。


瑞樹は、襟元がVラインの淡い水色のワンピースの水着に、ロングパレオを纏っていた。

薄い生地のパレオが風に揺れ、まるで精霊が浜辺に舞い降りたようだった。

色白の瑞樹に淡い水色はとてもよくマッチしている。

「ごめんね、お待たせしました」

そういうと、筒井ファミリーの面々に微笑んだ。


(おおおおぉ……!)

波打ち際では、頭だけ出してプカプカ浮いた一年達が、押し殺した声で感嘆した。

「藤沢マネージャーの水着姿、超いい!」

三崎は泣けるほど感動していた。

「いやいやいやまだまだ、まだ菅波マネが来ていない。泣くのは早いぞ三崎よ!」

と大山が言う。

「いやあ俺は満足だ……果てしなく満足だ……」

その時、

「菅波先輩、早く早く~!」

キャッキャとはしゃぐ元気印のハナの声が聞こえてきた。

なんとハナは思い切りも良く、黒地に大柄のピンクの花の刺繍があしらわれた‘ビキニ’を身に着けている。

合宿という名目を吹き飛ばす、パンチの効いたいでたちだ。


(ブーーッ!!!)

大山はジュースを噴き出した。

小さい体からは想像もつかないような胸元と、ピチピチとしたハナのボディラインにぶっ飛んだ。

「ちょっ、大丈夫?大山。お前、橘には興味ないんじゃなかったの?」

「きょきょきょ興味ないさ三崎君……あんなチビの三角ビキニなんぞ……」

「三角って、しっかり見てるじゃん」


温彩は真新しいサンダルに苦戦しつつ、ハナにせかされながら浜に下りてきた。

オレンジ色にステッチの入ったタンキニに、同色のパレオを巻き着けている。


「んあー、菅波マネもいいなぁ!女の子らしいキュートなオレンジの水着」

「ホント、チラ見えのおなかもグラビアアイドルみたいだあああ」

口々に品評する一年たちは、今にも海の藻屑となり、沈んでいきそうだった。


ハナは早速、賢悟を探し始めた。

「賢悟せんぱーい、賢悟せんぱぁーい!?」


賢悟はというと一人岩陰にて、やはりここでもまた瞑想に更けていた。

海に入ることもなく、だた浜に鎮座する姿はやっぱり何かの修行中に見える。

「あ!!賢悟先輩みぃーっけ!」


バスの中で、『海では一緒に過ごしましょうねっ、ね!?』とハナに詰め寄られた賢悟は、『わかったからあっちに戻れ!!』とあしらった。

しかし、あしらったつもりが‘約束を取り付けた’とハナに思われたのだった。

墓穴を掘ったのである。


賢悟に近寄るとハナは満面の笑みで、賢悟の腕をペチペチとたたいて起こした。

「賢悟先輩、起~きてっ」


(くっそ~……何でこうなんだよ……)

今日はヘの字口だけには留まらず眉間にシワを寄せ、ギロリと片目を開けてハナを見上げた。

(ゲ、何だコイツの格好は。なんかもぉ頭痛てえ……)


その少し後ろでは、オレンジ色の水着がバツの悪そうな顔で手を振っていた。



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