海辺の合宿所
宿泊施設に到着した時は正午を回っていた。
白い壁が天頂の太陽を反射し、一行を迎えている。
「うおー!すげぇーよ、見て見て、超きれいな砂浜じゃんよぉ!」
大山が騒いでいる。
受付のあるロビーの奥は大きなガラス張りだ。そのガラスの向こうに、真白い砂浜が広がっている。
「あれ、プライベートビーチだってよ。まるでリゾホじゃん!」
「こりゃ早く飯食って行かなきゃでしょ!」
「やったー!海、海~」
はしゃぎたくなるのも無理のない、素晴らしい眺望だった。
「こーら、お前ら騒ぐな」
飯田が興奮冷めやらぬ部員たちに一喝を入れ、集合をかける。
「ちょっと大山、子供じゃないんだからねっ。早く並ぶ!」
ハナが苦言を呈すと、大山は「ちぇ」と引き下がり列に直った。
全員荷物を持ち、ロビーの脇に移動した。合宿の注意事項やスケジュール、部屋割りなどの説明を受ける。
その後は大食堂での昼食だ。
食堂の一角に、カレーの用意された席が並んでいた。温彩たちサッカー部用に用意されたものだ。
その横壁もまた、大きなガラス張りだった。すぐ目の前にビーチが望めた。
皆が食べ終わる頃に、温彩が午後の予定を発表した。
「水着を着用し、十四時にこの裏手にあるデッキの先に集合してください。着替えは各自の部屋で済ませてくることと、戸締りを忘れないようにしてください」
デッキ。そしてその側らはテラスになっている。それがちょうど食堂の席から見える。
テラスには、休憩中の水着の人達の姿が覗えた。
一年達が何やらヒソヒソと話しを始めた。
「な、な、この後の海水浴って、みんなで泳ぐのかな?マネージャーも一緒かな?」
「うん多分。橘、超張り切ってたもん」
「つーことはやっぱ、水着だよな?」
「そりゃそうだよ。何?大山、橘の水着に期待してんの?」
「ばーか、んなわけねーだろあんなチビ!先輩たちだよ、せ・ん・ぱ・い・マ・ネ!」
そう言いながら、忙しそうにしている温彩達をチラッと見る思春期真っ只中の少年達。
食事が終わって解散の号令が出た後も、しばらく団子になり話し込んでいた。
「ほら。早く部屋に戻らなきゃ、集合に遅れちゃうよ?」
瑞樹が声をかけた。
いつまでもフロアでくすぶっている大山たちを優しく促すと、黒髪を翻して雑用に戻っていった。
「いいよなぁ藤沢マネージャー。大人の女性って感じだよなあ」
「いやいや、やっぱ二年の菅波マネでしょ。知ってるお前ら?菅マネ、‘運動部の天使’って呼ばれてるんだぞ……」
話をしながら、大山らはうだうだとフロアを進んでいた。すると、
「コラー!早く行きなさいよ部屋にっ、邪魔よ邪魔っ」
今度はハナが追い立ててきた。
「うっせーよ、チビハナ!」
「なにぃー!」
走り去る大山達のバタバタという足音と叫ぶハナの声が、夏合宿の始まりを賑やかにしていた。
笹が浜の合宿所には、宿泊施設の建物のほかにもプールや体育館、大規模なトレーニングルームなどの別館がいくつもあった。
その向かいには野外競技用のグランドが各種、テニスコートなどが順良く並んでいる。
そしてそれらは浜を取り囲むようにしてズラリと並列していた。
リゾートホテルさながらの大型スポーツ宿泊施設だ。
リゾートっぽさを感じさせる一番の理由は、目の前に広がる白い砂浜ときらめく海のせいだろう。太陽の光を受けて乱反射を繰り返す海面と入道雲が眩しい。
温彩たち以外にも施設利用者がビーチを利用していて、海には人影がいつくか浮かんでいる。
浜は湾に沿って程よい曲線を描いていて、少し行った先にはビーチを背にして林があった。
その林の向こうが、ちょうどサッカーゴールの置かれているグランドになっているようで、今は他団体が練習試合を行っているのか、ざわめきとホイッスルの音が聞こえている。
集合時間の十四時。
着替えを済ませたサッカー部員たちが、デッキに集まってきた。そして飯田より注意事項、連絡事項の伝達が行われた。
到着してからずっと説明を聞いてばかりで飽きてきたらしい部員達は、遂にそわそわとし始める。
背後には、常夏の海が待っているのだ。
「では十七時に、再度このデッキに集合」
「やっほー、いえーい!」
待ちわびた解散の合図と共に、皆一斉にビーチへと雪崩れ出た。