荒れ狂う吹雪の中でも
勇者を取り巻く環境はますます険しくなっていた。
ヘビのようにうねり、迫る炎を寸前で交わし、
命を拾った過去の経験。
そんなものまるで何もなかったのように、
氷で覆われた大地の主は勇者をひたすらに嘲笑し始めた。
このわずかな氷の散弾の連続に屈したとしても、
勇者は倒れ、やがて土なる。だたそれだけ。
所詮自分など小さき存在なのだろうか
自分は必ず魔王に勝てる
そんな言葉は妄言にすぎないのだろうか
片膝が雪の中に埋もれていく
たまらずついた左手は勇者の想像を超える速さで
深く深く飲み込まれていく
呼吸はどんどん荒くなっていく
目の前は何も見えない
勇者は、自分の心が次第に硬く
所々尖ってゆく過程を、宙を舞い始める意識の中で
確かに感じていた
しかし、そんな彼を呼び戻したのは
旅に出るきっかけとなった悲しみだった。
自分がここで倒れたら
また世界で悲しみが一つ増える
だから、もう、倒れるわけにはいかない。
これ以上、世界に悲しみはいらない
荒れ狂う吹雪の中で、
勇者は残された力を振り絞り、
なんとか立ち上がる事に成功した
まだ、いける
まだ、先へ進める
もはや声は出なかったが、
言葉は炎となって勇者を一歩づつ、確実に
前へと歩ませてくれた