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聳え立つ者達の中でも
休んでいた勇者の四方を取り囲むように守る木々が、
空から降ってくるかのような暴風に晒され
激しく揺さぶられていた。
勇者は温かみのある樹木の皮を撫でつつ、
傍に置いてあった剣を取り、身をかがめながら
天に顔を向けた。
鉄のように固そうな両翼を泳がせて舞う黒い鳥が見えた。
腹部は虹のような羽に包まれている。
猛禽類を思わせる鋭い眼光が
揺れる緑達の隙間から飛び込んできた。
だが飛ぶ姿はとても華麗で、美しく、
何よりその巨大さに勇者は己の小ささを思い知らされた。
嘴は丸く穏やかそうだが、それでもこの世の何もかもを
貫く事が出来そうに感じられた。
翼から放たれる風は沢山の葉を撒き散らし、
それは周囲の動物達に畏怖の感情を抱かせた。
勇者は唾を飲み込み、息を殺して、
黒きものが過ぎ去るのをじっと待ち続けた。
見つかったら命はない
たった一つの事実のみを受け入れて、
勇者はこの場を切り抜ける事だけを考えた。
聳え立つ者たちの中で、勇者は何よりも
冷静でいる事を心がけた