そして、幕開け
青年は、ただひたすらに平原の先を見据え、歩いていた。
様々なことを、想いながら。
暮らしていた集落は、
唐突に現れた異形の者達とそれらを操る甲冑を着込んだ一人の人間によって消し去られた。
七人兄弟の末子である彼は、
たった一人だけ生き残ってしまった。
父親は串刺しにされた。
母親は激しい炎に焼かれた。
彼には、何もなくなってしまった。
荒れ狂う心に平静が保たれた頃、
これからどうすればよいのか、青年は様々な思いを巡らせた。
彼はまだ、この世界の何もかもを知らない。
自らを取り巻く運命の過酷さを
人という物の醜さを
愛する事の切なさを
この先に待ち受ける困難を
やがて自らに迫り来る悪意を
そして、戦う という言葉の重みを
彼はまだ その全てを知らずに歩いていた。
今、心底にあるのは 悲しみ ただそれだけ。
歩き始めたきっかけは、そう、
悲しみ。
異形の集団は他の集落では魔王と呼ばれ恐れられていた。
魔王。
平原を越え、自分がこれまで暮らしていた世界とは違う景色が見えてきた頃、
青年は魔王を倒す者になろうと決意していた。
家族の仇を取りたい。
何かを成したい。
この悲しみの鎖を、自らの手でぶった切りたい。
あの異形の集団をこの手で葬りたい。
銀色の甲冑を着込んだ人間を探し出して復讐したい。
きっかけは、そう悲しみ。そして怒り。
そして その先に待つものは ただひたすらに 戦い。