透明少女

とある男の場合

透明とは

水槽に水が張ってあるのを見てそれを水だと認識できるのは、あなたがたが水と云う認識を持っているからであると君は言ったね。しかし、私にはそれが理解できなかったのだ。

私の一番最初の記憶は錆びた鉄の匂いであった。

私はそれを美(・)し(・)い(・)と感じた。

それがいつ頃どんなところでの記憶かは定かではない。

私は大層丁重に育てられていたらしく、幼少の頃に育った部屋には錆びた鉄どころか、触れるものは全て木製で揃えており、鉄すなかったと家族は云うが、そのヴェルヴェットのような美しい匂いが脳内の古ぼけたアルバムの表紙をめくると確かにそこにはあるのだ。