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女神の災難

新米の転移の女神である

アリエーネは困惑していた。


彼女の元に珍客達が

訪れて来ていたのだ。


強面こわもていかつい男達の集団、

顔に傷がある者達も多数居て

どう見ても堅気かたぎの人達ではない。


前任の転移の女神は

行方不明になっていると聞いていたが、

まさかこういうおっかない人達に

何かされたのではないだろうか。


仮にも神である癖に

外見で人を判断し、

新米であるが故

不安な気持ちになり、

ちょっとおっかなびっくりで

びくびくおどおどしていた。


最初の内は

若い男子がほとんどだったのに、

ここ最近変わった人達ばかり

やって来る、

自分は本当にここで

やっていけるのかしら

そんな気にもなって来るのだろう。


-


これは、人間世界のマフィアである

伊勢乃会いせのかい真央連合まおうれんごう

全面抗争を起こし

その関係者達が死に掛けて

続々とここに送られて

来ているのだった。


しかも、先程まで抗争で

殺し合っていた人達が

一同にここに会するので

尚更始末が悪い。


とても新米のアリエーネの

手に負えるものではなかった。


「おうっ、伊勢乃の、

ええとこで会ったな、

ようもワイのタマ

取ってくれたなっ、

ここであったが百年目じゃっ、

覚悟せいよっ!」


つい数分前にタマを取られて、

数分後に既に再会しているのだが、

百年は一体何処に行ったのか。


「上等じゃっ、ボケェッ!

ワイは不死身じゃっ!

お前なんぞにやられはせんわぁっ!」


いやもう既に死んでいるのに、

不死身とは一体何なのか、

哲学みたいなものであろうか。


そっちこっちで

殴り合いの喧嘩がはじまっている。


『あたし、この職場、

ダメかもしれない……』


混沌したカオス状態の転移の間、

新米である女神アリエーネは

もう泣きそうになっていた。


しかも上からの指示では、

このマフィアの集団、

どちらの組織であるにせよ

すべて指定してある

同じ異世界に転移させる、

ということになっている。


そんなことをしたら、

異世界に行っても

抗争を続けるだろうが、

神々的にはそれが

楽しみなのであろう。


巻き込まれる

異世界の人々にとっては

たまったものではないが。


-


とりあえず

泣きそうになりながら、

必死で転移させ続ける

女神アリエーネ。


ようやく少し

落ち着いたと思ったら、

今度は柄の悪い

パンチパーマの男に

因縁をつけられる。


「おうっ、ねえちゃんっ」


その男は目付きが悪く

左右に体を揺らしながら与太る。


「ワイ、

えんこつめて

小指がないんやけどな、

転移ちゅうもんの際には

ちゃんと元に戻して

もらえるんやろなっ?」


えんこつめるとは、

マフィアが

けじめをつける時などに

指を切り落とすことで、

確かにその柄の悪い男、

左手の小指が

第一関節ぐらいから

欠損している。


「い、いえ、あのっ、

そういうサービスはちょっと……」


女神は冷や汗をかきながら、

返答に困り果てる。


「なんでじゃ、ワレェ!

ワイの蜂の巣になった体が

こうしてなんもなかったように

元に戻ってるんじゃから、

それぐらい出来るやろうがっ!」


まぁ確かに

車に轢かれたからといって

ぐしゃぐしゃの状態で

ここに来た人間はいない。


当然轢かれる前の状態を

デフォルトとして

扱ってくれているのだろうが、

一体何処までがデフォなのか

その境界線は気になるところだ。


例えば、

足が不自由な車椅子の人が

異世界に転移することになった場合、

足は不自由なままなのか、

不自由のない状態の足であるのか。



困り果てている新米の

女神アリエーネに

思わぬところから助け船が入る。


「よさねぇかっ、サブッ、

女神様もお困りの

ご様子じゃあねぇかっ」


「あ、兄貴っ!」


この柄の悪い男に

兄貴と呼ばれた人物。


伊勢乃会若頭

石動不動いするぎふどう


名は体を表す、

名前の通りの巨漢で、

まるでプロレスラーのように

いかつい体形、

強面でまるで狛犬のような

クシャとしった顔、

頭が丸坊主だというのが

余計に凄みと迫力を倍増させている。



『あたし、この現場、

絶対、移動願い出す……』


女神アリエーネはそう思いながら、

上からの指示書に目を通す。


『石動不動:勇者』


「えっ!?

あなた勇者なのっ!?」


女神アリエーネは思わず

素っ頓狂な声を出したが、

石動には何を言っているのか

全くわかる筈もない。


「ねえちゃん、

何を言っとるんじゃ、

しばいたろか?」


『あたし、この現場、もう無理っ!!』



とにもかくにも

こうして極道勇者が

異世界に誕生することになる。






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