死神のサバト
「勇者はん、ワイ
どないしたらええんやろか?」
勇者の目の前には
エセ関西弁を喋る死神がいる。
『どうしたらいいのか、
聞きたいのはこっちだよっ』
何故死神に
こんな相談をされているのか、
それは勇者にも分かっていない。
強いて言うなら、
以前勇者が他の異世界で
盛大にやらかした時に
女神を一人行方不明にしており、
神々の間ではちょっとした
有名人だからであろう。
たまたま他の依頼で
ここに来ていた勇者は
死神に呼び止められ
唐突に相談事をされたという訳だ。
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その死神の相談事と言うのは、
やはり信徒集めに関することで
この異世界では死神と言えど
それなりに支持者を得る
必要があるらしい。
「やっぱりワイ、
イメージが悪過ぎるんやろか?」
黒いローブで全身を覆い、
フードを被って
髑髏の顔だけを覗かせている、
そして手にはトレードマークの
大鎌を常に持つ。
人が持つ死神のステレオタイプ、
目の前にいるのはそんな死神、
実物の彼を見て
怖がらない人間と言うのは
まずいないだろう。
厨二かメタル系の人などは
ファッションで髑髏を
好んでいたりはするが。
「魂が彷徨い続けるのを防いで、
ちゃんと冥府に導くっちゅう
いい事もしとるんやけどなぁ」
今際の際に
死に行く者を迎えに来て
魂と肉体を切り離す、
命を奪う存在、
やはり人が持つイメージは
そう言った怖いものであろう。
実際に彼が、
死んだ人間の魂の管理者で
彷徨える魂となって
地縛霊やら憑依霊、悪霊などに
なることを防いでくれると言うのなら
そこはもう少し評価されても
いいところではある。
死神の話を聞く限り
一神教の世界観であれば
死神と同じ役目を果たすのは
天使ということになるらしい。
やはり見た目と演出、
人々のイメージというのは
大事なものだと勇者は思う。
とは言え今更
この見た目の死神に
天使のような可愛い路線で行け、
というのも酷ではある。
全身ピンクのローブを着た
髑髏の死神というのも
ただのお笑い芸人にしか思えない。
死神自身も数には
それ程こだわっていないようだから
一部のマニアックな熱狂的信者を
生み出すことが出来ればよいのだろう。
そうであれば厨二心をくすぐる
マイノリティ路線で問題ないのだが、
カッコイイと思わせるだけの
何かインパクトがあるものがないか、
それをあれこれ考える。
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いろいろ考えた勇者だったが
結局、見たまんま
というかもはや駄洒落の領域で
死神にデスメタルを
やってもらうことにした。
「な、なんですか、
このけったいなやかましい音は?」
聞いたこともない音楽に
目を白黒させる死神、
そこに目玉はないのだが。
勇者はワザワザ
自分が元居た人間世界まで行って
音源を用意して来ていた。
「こ、これをワシがやるんですか?」
明らかに困惑しており、
戸惑いを隠せない。
「人間達を集めたライブという集会で
この音楽を演奏して聞かせて
ファンを、もとい信者を獲得するんだ」
唖然とする死神をそっちのけで
勝手に話を進める勇者。
「そうだな、せっかくだから
ライブじゃなくてそれっぽく
サバトという呼び方にしよう」
今回の勇者のやらかしポイントはここで
死神のデスメタルライブに
悪魔や魔女達の魔宴である
サバトと言う名称を付けたことだった。
死神の見た目もそっちぽいし、
まぁいいだろうぐらいの
軽い気持ちで付けたのだったが、
これが原因で後に
悪魔達と揉めることになる。




