運命の強制力
その後、時の勇者は
旅で通るルートを変えたが
やはり魔王軍幹部である
あの悪魔騎士と遭遇してしまう。
それから何度も
ルートを変え試してみるのだが、
どのルートでも必ず奴が現れる。
その度に時間跳躍で数日前に、
元の出発地点へと戻って来ており、
あれから一向に前へ進めていない。
『これが歴史の矯正力と言う奴か、
いや強制力と言う気もするが』
この世界には、自分と悪魔騎士の
どちらかが死ぬ未来しかないらしい。
願わくば自分が生き残る未来で
あって欲しいものだが。
ここまで追い込まれて
時の勇者はようやく決意を固める。
『本当に嫌なんだが、
もうアレを使うしかない』
-
もう一度旅を最初からはじめると
やはり途中でいつもの
悪魔騎士が姿を見せる。
出発の日時を変えているというのに。
敵の不意打ちも
既に何度も経験しているので
未来予測なしでも分かってしまう、
それぐらいに何度も繰り返していた。
むしろこの悪魔騎士に
愛着すら湧きはじめている。
『こういつも何度も
俺を待ち続けているなんて、
こいつどんだけ俺のこと
好きなんだよ?』
そんな錯覚すらしてしまいそうである。
それも今日ここで終わらせる、
そう思いたい時の勇者だったが、
そうはならない、
余計に酷い結末になるのも知っている。
しかしここを通らなければならない以上、
とにかく今はこいつを
何とかしなくてはならない。
-
時の勇者が
その能力を発動させると、
目の前に居る悪魔騎士の姿が
みるみる変貌を遂げて行く。
大剣を振り回していた悪魔騎士、
だがすぐにそれが持てなくなり、
それを手から落としてしまう。
「な、何をしたのだっ?」
どんどん時の勇者が大きくなって行く、
悪魔騎士からはそう見える。
やがて自らが着ていた
鎧の中に埋もれて
目の前が真っ暗になり
何も見えなくなって行く。
時の勇者、
その目の前に居るのは
悪魔騎士ではなく
ただの赤ん坊。
そう、時の勇者は
悪魔騎士の時間を
極限まで巻き戻したのだ。
悪魔騎士の肉体は
時間をどんどん逆行し、
子供に還り、赤ん坊まで戻った。
種族は何かは分からなかったが
おそらくは魔族の赤ん坊なのだろう。
敵を戦闘不能に陥れることには
成功した時の勇者。
-
一見無敵にも思える能力だが、
時の勇者がこの能力を
使いたがらないのには理由がある。
毎回のことながら、
どうせならちゃんと責任を取って
最後まで時間を巻き戻してくれと
思わずにはいられない。
赤ん坊からさらに逆行して
種の状態まで戻ってくれれば
それはそれで問題ないのに、
必ず相手が赤ん坊の状態で
能力が勝手に終了するのだ。
つまり時の勇者の目の前には
可愛らしい珠のような赤ん坊が
必ず残るである。
子供好きな時の勇者、
そんな可愛らしい赤ん坊を
殺してしまえる筈もなく、
その場に置き去りにして行くことも
出来ない。
むしろこのまま
置き去りにして行ったら危険だし、
魔獣に喰われたり
人攫いに
連れて行かれるのではないかと
心配をしはじめる。
それで仕方なく
養護施設に預けに行くのだが、
しょっちゅう
赤ん坊を拾ったと言って
預けに来るものだから、
擁護施設の人達からも
完全に怪しい人物だと思われていた。
「また、あんたかいっ!?」
「あんたまさか人攫いなんじゃ、
ないだろうね?」
人攫いに合わないように
心配しているのに
人攫いを疑われるという皮肉。
そうした事情があり、
時の勇者からすれば
封印したいぐらいの能力なのだが、
今回のような場合は
使わざるを得ない。
この能力、逆に使えば、つまり
敵の時間を極限まで早送りさせれば、
相手を老衰、衰弱死させることが
出来るかもしれないのだが、
時の勇者はまだそのことには
気づいていない。




