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歌姫の鎮魂歌

そんなことが本当にあるのか?


勇者は不思議に思いながら、

ホログラムで映し出される

バーチャルアイドルの話を聞いていた。


ここまでの話を

悲しそうに語った彼女は

もはやAIではなく自我を持つ

人間そのものように見える。


人間達が死に絶えた世界を、街を

彼女やロボット達は

これまで百年以上も

生き続けて来たということか。



「お前やロボット達の

動力源はどうしているんだ?」


「私達がここの発電システムを

半永久機関として

ずっと動くように改造しました……


それも百年を過ぎた頃から、

私と最初からいるロボットの子達には

必要がなくなったのですが……」


百年と言う言葉に

勇者はピンと来た。


『そうか、こいつ等、

付喪神つくもがみになったのか』


付喪神になったバーチャルアイドル、

付喪神になったロボットと日本車。


付喪神は、日本に伝わる伝承で、

長い年月を経た道具などに

神や精霊がなどが宿った者達。


よく百年経つと付喪神になると

言われることが多い。


このバーチャアイドルをはじめ、

地上の日本車やロボット達も

すべて百年を経過した時点で

付喪神へと

変質を遂げていたのだろう。



「ずっと人間の人達を

待ち続けた私達は

あなたが来てくれて

本当に嬉しかったのです……


でもあなたは

ここで生きて行く人では

ないのですね?」


バーチャルな存在でも

勇者がこの世界に

再び甦った人間ではないことは

分かるらしい。


「俺はこの世界を

調査しにやって来たんだ、

神々の関係者に頼まれてな……」


勇者はここにやって来た事情を

彼女に話した。


「お願いです、どうかここを、

この世界をなくさないでください……」


「しかし、

お前達がずっと待っている人間は

もうここには……」


人間という種が滅んだ世界に

再び人間の生命が

誕生することはもうない。


「分かっています……

私達にももうこの世界に

人間の人達が生まれないことは

分かってはいたんです……


それでも、まだこの世界には

死んで行った人間の人達の

魂がまだ沢山残っているんです……


だからここを

なくさないで欲しいんです……


私はずっとここで歌い続けます、

ここにまだ残っている

人間の人達の魂のために……


私のことを愛してくれた

人間の人達の魂のために……」


鎮魂歌レクイエムか』


百年以上も前に

死んだ人間の魂のために、

このバーチャルアイドルは歌い続け、

ロボット達もまた街を修復し続ける。


勇者は珍しく

そうした異世界があってもよいかと

柄にも無いことを思う。


いくらあの傲慢で狡猾な神々と言えども

付喪神と『神』の名を冠する者達が

多数いる世界をおいそれと

消滅させられはしないだろう。


まぁ、依頼者には

付喪神の住処であったと伝えるとしよう。


勇者はそう思いながら、

バーチャルアイドルの歌声を

改めて聴いていた。


-


地上に戻り、渋谷近くにある

大きな元公園に行くと

そこは彼女の話通りに

無数の墓標で埋め尽くされていた。


そこからは彼女の、

バーチャルアイドルの歌声が

よく聞こえて来る、

彼女を愛した者達への

彼女が愛する者達への鎮魂歌が。


バーチャルアイドルの歌声が聞こえる

滅んだ日本のパラレルワールド、

その渋谷の街を勇者は後にする。






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