流浪のおっさんドラゴン
異世界を転移し続け
流浪する勇者がいるなら、
異世界を転移し続け
流浪するドラゴンもいる。
新米勇者が手にする
竜殺しの剣で一刀両断にされる
中ボスクラスの巨大ドラゴン。
「グゥゥゥォォォオオオッ!」
断末魔と共に
崩れ落ちるその巨体。
新米勇者のレベルは上がり、
これでもう中堅勇者の仲間入り。
巨大ドラゴンの屍は粒子となって、
最後にドロップアイテムを残して
消え去って行く。
-
無限に広がる闇の中、
扉がただひとつだけあり、
他には何もない空間。
先程の巨大ドラゴンが扉を開けると、
まるで大岩のような
屈強な肉体をした老人が
そこには居る。
「ドラゴンちゃん、
今回もお疲れちゃ~ん」
「いやぁ、
今回もよかったよ~
あの新しい断末魔、
もう最高だったじゃない!」
「あれは自分でも
ちょっと工夫して変えてみたんで、
そう言ってもらえると嬉しいですわ」
白髪で白い髭を蓄えているその老人は、
『ゼウス』と名乗っていた。
だが、あのゼウス神とは関係がない。
転移者や転生者が
状況を理解しやすいように、
彼等のような転移エージェントや
転生エージェントは
みんなゼウスと呼称されていた。
それ程に神の名前は
人間にはわかりやすい。
「早速で悪いんだけどさぁ、
次の現場なんだけどね~」
ゼウスは手帳を取り出すと、
次の仕事の話をし出す。
「ちょっとワシ
今現場終わったばっかりっすよ」
「最近、
異世界転移・転生モノ
流行ってるからね~
勇者も足りてないし
ドラゴンも足りてないし
集めるのももう大変なのよ」
「いやぁしかし、ホンマ、
異世界に転移して来る勇者、
最近多過ぎですわ」
「いいじゃないの~
それだけ仕事あるってことだから」
このエセ関西弁を喋る
おっさんドラゴン、
初心者勇者向けの
中ボス的なやられ役として、
様々な異世界を転移、
流浪して渡り歩いていた。
ドラゴンを倒すには
竜殺しの剣など
特殊な武器が必要となり、
新米勇者がその武器を手に入れ、
このおっさんドラゴンを倒す、
そこまでがワンセット。
簡単に言ってしまえば
新米勇者の昇段試験のようなもの。
そしてこの転移エージェント・ゼウスは、
おっさんドラゴンの
マネージャーみたいなものであり、
様々な異世界に営業を掛けては
やられ役の仕事を取って来ているのだ。
「最近、ドラゴン不足で、
やられ役のギャラも
上がって来てるからさぁ」
「ご家族への仕送りも
増えていいんじゃない?」
「ご家族喜んでたよ~
お父さん頑張ってくれるから、
生活が楽になって、
本当に助かるって」
「ちゃんとギャラは
ご家族の元に届けておくからさ、ね」
おっさんドラゴンは
勇者のやられ役として稼いだ報酬を、
自分が最初に本来いた世界、
そこに残して来た家族のために、
ずっと送金し続けていた。
いわゆる出稼ぎに
来ているようなものでもある。
「ホンマですか……
ならワシやりますわ、
あいつらが少しでも
楽な暮らし出来るんなら」
ドラゴンは今の仕事で
十分な金を稼いだら、
ゼウスに頼んで、
元の世界に転移させてもらって
再び自分の家族と一緒に
暮らすことを夢見ている。




