第七話
試合は開始早々から圧され気味の展開であったが、前半終了間際にゲームメーカー
中田先輩の絶妙なスルーパスを受けた俊足右サイドバック梶原先輩がディフェンダー
一人を交わし、ペナルティエリア付近に低いライナー性のボールでセンタリングを上げた。
スルーパスを出した後に、ペナルティエリア付近まで全力で走りこんでいた中田先輩が、
相手DFに身体を預けながらダイレクトでボレーシュートを放ち、ゴール右隅に突き刺した。
試合は、先制点を奪った良い流れのまま前半を終えた。
「このまま勝てるんちゃうか。後は守りきれるかやな」
熱烈な応援で喉をからした由斗が、秋良に声をかけた。
「守りきれるか?向こうも必死で点取りにくるやろし、
もう一点取らんと、追いつかれたら勢い乗られて危ないで。」
同じく応援で声をからした秋良が答える。
後半開始早々、秋良の心配が的中してか、DFのクリアミスしたボールを
相手FWに奪われ、同点に追いつかれてしまった。その後は前半の良い流れを生かせず、
相手ペースで試合を組み立てらたまま、試合は進んでいった。
後半二十五分、相手チーム左サイドからのコーナーキック。
ファーサイドに上がったボールは、競り合った梶原先輩の頭越しに相手FWが
ドンピシャのヘディング、ゴール左サイドへ飛んだボールはゴールライン手前で
バウンドし、さすがの室町先輩も触れず、そのままゴールネットに吸い込まれた。
「おら、声足らんからや、もっと声出していくぞ、行け行け清水!」
「行け行け清水!」
応援団長新谷先輩の檄に全員が答える。
残り十五分、チャンスを作りつつも、相手高校の固い守備にも阻まれて
同点に追いつくことはできず、一点差のままインターハイ予選は府ベスト十六で終わった。
進学校でもある彼らの高校では大半の学生は大学に進むため、レギュラーメンバー
以外の三年生はインターハイ予選終了とともにサッカー部を引退し、大学受験に向けた
新たな挑戦に挑むこととなる。
今年の三年生は五人がレギュラーメンバーとして秋から冬にかけて行われる
選手権大会まで残ることとなった