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第三話

 放課後、秋良と由斗はサッカー部希望であることが一目で分かる運動着に着替え、

中学時代から使っているスパイクをそれぞれ手にして、体験入部が行われるグラウンドに

向かっていた。


「おう比呂、お前もやっぱりサッカー部入るんか?」


 髪型は野球部に入部した方が良いほどの短髪で、背はそれほど高くない少年の背中を、

由斗はスパイクを持った方の手で軽く叩いた。


「お、由斗やん。まぁ帰宅部でも良いかなと思ったんやけど、やっぱり何かせんと、

 天が与えた抜群の運動神経がもったいないし、バチがあたると思ってな。それよりお前、

 スパイクで叩くなや」


 比呂と呼ばれた少年は、自分の背中にあたった由斗のスパイクをサッカーボールに

見立て、蹴るふりをした。


 由斗は、秋良のいる方の手にスパイクを持ち替え、比呂の蹴りをさっと交わすと、

それぞれを紹介した。


「こいつ俺と中学同じで、比呂って言うねん。運動神経はたいして良くないけど、

 サッカーしてたらモテるって勘違いしてるのんと、あとは俺自身に憧れてなんやろな、

 まあなんやかんやで高校からサッカー始めるらしい」


 由斗が言い終わると同時に、大阪に生まれた人達が持つ共通の遺伝子が覚醒し、

その宿命でもあるかのように比呂は由斗の肩に、誰がやねん、と突っ込みを入れた。


「お前がやんけ、ほんまは憧れてんねやろ、俺が中学の時にモテてたから。

 まぁええわ、ほんでこっちが秋良。俺と同じクラスで、サッカー経験者」


 掛け合いを楽しむように比呂の肩に手を回し、反対側を歩ている秋良の肩にも手をかけた。


「誰がモテてたん?そんな話聞いたことないけど」


 比呂は肩に回された手を煩わしそうに払い、秋良の方に浅黒い顔を向け、


「えーと、秋良って呼捨てで良いんかな?別に良いよな、同い年やし。俺のことも

 呼捨てで良いし。せやけど自分らも可哀想やな、俺が入ることでレギュラー枠が

 一人減って。残りの十人、いやいや二人ともキーパー希望でも無さそうやから、

 九人の枠を頑張って確保せなあかんわ。頑張りやんとな」


 三人のうち、自分が初心者で、残りの2人が経験者であることなど、一切気にせず

自信満々に笑って言った。

 

 浅黒い肌と、その小さな顔に比べると比較的大きい口から見える白い歯が、

この初対面の同級生は明るい性格なんだろうと、秋良に印象づけた。


「ほな、俺らは比呂を除いた九人の枠に何とか入らんとあかんってことやな、由斗?」

 

 同じ中学で過ごした二人の息のあった間合いを少し羨ましく感じながら秋良が答えると、


「おいおい、誰に言うてんねん、秋良。選挙速報に例えて言うたらやな、投票締切と同時に

 当確マークがテレビに出るほどの実力を持つ俺に聞く質問や無いやろ。

 おっと、お前らでは例えが複雑すぎたかな。

 なんしか比呂じゃ無くて、俺を除いた九人からお前らがレギュラー枠を獲得せなあかんねん」


 間髪を入れず、比呂が呆れたようにため息をつき、呟いた。


「秋良、どうしようもないアホやな、この人。どうやってここの高校受かったんやろな?

 同じ高校ということは、自分が同じぐらいの頭脳レベルやっちゅうことになって、

 悲しなるわ。例え方がいまいちよう分からん上に、いまの根拠の無い自信はどこから

 来んねやろ」


 どっちもどっちやん、彼らの出身中学は全員がこんな感じなのか、秋良は半ば唖然と

しながらも、中学時代とは一味違った楽しい高校生活が過ごせそうな予感がした。


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